【神尾佑酒に交われば】災害から再起を果たし再び祭りに華を添える　本宮市唯一の酒蔵「大天狗酒造」

Chu! PRESS

2023.05.13

福島県出身の俳優・神尾佑（ゆう）さんが県内の酒蔵を訪ね、日本酒を酌み交わし、その酒蔵にまつわる物語を紐解いていく番組「神尾佑酒に交われば」。

日本酒王国福島県には、50を超える酒蔵がある。このうち、2回目に訪れたのは本宮市の「大天狗酒造」だ。

本宮市でただ一軒、酒を醸し続けている

明治5年に創業した市内で唯一の酒蔵「大天狗酒造」は、本宮駅の目と鼻の先にある。
取材に訪れたのは初夏。その年のしぼりを終え、蔵は静寂に包まれていた。一歩足を踏み入れると、まるで蔵を独り占めしているかのような感覚を覚える。

ひと仕事を終え、静まりかえる蔵の中

独特の静寂も、この時期にしか味わえない贅沢

杜氏は、3人姉妹の長女である小針沙織さん。8年前に会社勤めを辞め、家業を継いだ。

結婚を機に、杜氏になることを決意

「大天狗酒造」の酒といえば、地元で行われる「もとみや秋祭り」に欠かせない存在。子どもの頃から祭りが大好きだった小針さんは、「大天狗酒造」の酒を呑む大人たちを見ながら育ってきた。「酒蔵を継ぐ人がいなければ、楽しい時間を共にする酒がなくなってしまう…」そんな危機感から、杜氏としての第二の人生がスタートした。

町中で酒が呑まれ始めると、そろそろ祭りがやってくる

しかし、酒造りを始めて2度目の秋。仕込みを目前に、台風19号による浸水被害にあった。

阿武隈川が氾濫し、市街地が水没

蔵の中も50cmほど浸水…

2019年の秋祭りは中止に。それでも、県内外から多くのボランティアが駆けつけてくれ、1か月ほどで次の酒造りを始めることができた。近隣の酒蔵の協力もあり、その年の暮れには新酒の初しぼり。量は少なかったが、酒蔵の命はつないだ。

浸水被害という苦難からの再起…！

もらった応援や励ましによってがんばることができた小針さん。「今度は、私が応援したい！」との思いで、2020年東京オリンピックの際には聖火ランナーと開会式での選手先導を務めた。うちに秘めていた感謝の思いを、行動に。

聖火ランナーとして本宮市内を走った

ところで、気になるのは「大天狗酒造」という名前の由来。明治時代に酒造りを始めようと蔵の片づけをしていた際に、行李（こうり＝竹で編んだかご）の中から天狗の面が見つかったのがきっかけだという。その天狗の面は、売店に祀られている。

どこか懐かしい、ただならぬ雰囲気漂う売店

作られたのは、明治時代より前かもしれない

昔から天狗は酒好きな生き物と言われていたこともあり、「酒造りの守り神に」という思いで名付けられた。

重みのある天狗の面が、酒蔵を守り続けている

天狗に守られ、再起を果たした蔵自慢の一杯。
それが、復興を願い、宇宙を旅した酵母「うつくしま夢酵母」で醸した「東北復興宇宙酒」だ。この夢のある酒造りには、県内27の酒蔵が参加している。

どんな味わいなのか…興味がそそられるネーミング

酒米は地元産の「夢の香」を使っていて、あまり甘くないのが特徴。華やかな香りでフルーティー、そしてしっかりとした味が印象的な仕上がりだ。

「いろいろな色がふわ〜っと広がっていく感じがする」

また、台風19号から共に再起を果たした地元商店街の「元気な今」をSNSで発信するなど、地域と共に歩む「大天狗酒造」は、新たな挑戦もしている。それが、スイーツとコラボした「大天狗特別純米」だ。

スイーツになる前の一杯

宇宙酒よりさらに甘さがなく、キレ味が特徴的な酒。この酒を材料の一部として、近所の菓子処にスイーツを作ってもらっているという。

「大天狗酒造」にほど近い場所にある

コラボしたのは、明治初期に創業した「菓子処いづみや」。この店も、台風19号では甚大な被害を受けた。浸水は2mにもなり、1階は水没状態に…2か月がかりで店の再開にこぎつけた。

そんな菓子所と酒蔵が力を合わせて作り上げた商品が、「大天狗特別純米」と酒粕を使った「ちーず酒すふれ」だ。

「大天狗」との相性は抜群

ふかふか食感

地元の酒として呑み慣れた味に、同じ発酵食のチーズを合わせてみた代表の渡邉智紀さん。納得がいく味に仕上がるまで、数か月を費やしたという。その甲斐あって、福島県内の日本酒スイーツコンテストでは、見事グランプリに輝いた。
酒粕の香りが漂う、甘さ控えめな自信作。「大天狗特別純米」のアテとして、一緒に味わってみたい。

右側が代表の渡邉智紀さん

神輿を担ぐなど祭りに参加している渡邉さんにとっても、「大天狗酒造」の酒は特別な存在だ。
その「もとみや秋祭り」は、災害や新型コロナウイルスの感染拡大により3年続けて中止になったが、2022年には4年ぶりに開催。「また、皆で酒が酌み交わせる」と信じて前を向いてきた「大天狗酒造」の酒が、再び祭りに華を添えた。

地域と関わりが深い酒蔵。祭りに欠かせない酒が、ここにある。

Chu!PRESS編集部

MENU

Chu! PRESS