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2022.11.02

【リポート】男性の育休取得で業務効率が向上?仕事一筋の夫の変化からわかったこと|ふくしま女性活躍推進シンポジウム

【リポート】男性の育休取得で業務効率が向上?仕事一筋の夫の変化からわかったこと|ふくしま女性活躍推進シンポジウム
日本を子育てしやすい環境にして少子高齢化に歯止めをかけ労働力を確保しようと、今年4月に改正された「育児・介護休業法」。この法改正で期待されることのひとつが、男性の育児休業の取得率が増えることです。
しかし、現実はどうでしょうか?働く現場では育休を取得しにくい現状があり、育休を取得しても、育児への参加がうまくいかないケースを耳にすることが多々あります。その原因がどんなところにあるのか?この記事では、3人の子どもを持つ私の経験を踏まえて検証していきたいと思います。

■夫の育休取得なんて考えもしなかった世代

私は29歳の時に長男を出産しました。その後、第二子、第三子も生まれ、現在、未就学児から小学生まで3人の子どもがいますが、3人とも出産後に夫が育児休業を取得するという選択肢は思い浮かびすらしませんでした。

出産した当時は、私も正社員として働いていたのですが、わが家の役割分担は妻である私が育休を取得して家事育児を担うというもの。会社員の夫は「営業職」でお客様相手の仕事があるため、自分の都合では休みが取りづらい状況でした。夫からは「僕は仕事を頑張るから、子どものことや家のことはよろしく頼む」と言われていました。私の中にも当たり前のように「産休育休は母親が取得し家事育児は女性の役割」という意識がありました。

もちろん、子どもの命を守り育むという責任と大変さに向き合うためには、夫の協力は必要です。しかし、実際は“夫と一緒に”というよりは“夫にお願いして手伝ってもらう”という感覚でした。
■団塊世代を親にもつ世代に染み付いた慣習

「妻は家事育児を担い、夫を支える」という意識は、育った環境が大きく影響しているように感じます。団塊世代である私の両親は共働きで、父親は朝早くから夜遅くまで働き、母親はパートと家事育児を両立しながら私を育ててくれました。そんな両親の姿を見ていたからか「仕事に励む夫に家庭のことで負担をかけてはいけない」と感じ、家事や育児を夫にやってもらうことは妻として申し訳ないとさえ思っていました。そのような私たち夫婦にとって、子どもが生まれてからの家庭のあり方が両親にならったものとなるのは自然の流れだったのかもしれません。

そうした中、先日、あることがきっかけで夫と「男性の育児休業」について話すことがありました。すると、意外にも夫から出てきたのは「自分も育児休業を取得したかった」という言葉。もちろん、子どもといる時間を増やしたかったという思いが大きいですが、それだけではない理由があったのです。
■育休を取ると給料も減り出世できない?

女性が活躍できる社会づくりを目指すため、今年9月に福島県二本松市で福島県の内堀知事も出席するシンポジウムが開かれました。その中で注目を集めたのは、「男性社員の育児休業取得率100%」を実現させた大手ハウスメーカー、積水ハウスの役員による講演でした。

男性が育休を取る場合に大きな不安が2つあります。
そのひとつは『家計の収入減』です。多くの企業は育休取得中の給与が「無給」になります。それを補うために国から給付金が出ますが、もらえる金額は給与の5割から7割程度(条件による)。子どもが生まれると出費が増えるのに生活費が減ってしまうという現実に直面するのです。

もうひとつの不安は、キャリアアップへの影響です。結婚して子どもを生む時期は、社会人として経験を重ね、働き盛りの時期とも重なる場合が多いですよね。会社の中でリーダー的ポジションになっている人にとって、家庭の事情で仕事を休むことで、そのポジションを失う恐れが付きまとうのです。

社員たちのそうした不安を払拭するために、積水ハウスでは「育休取得の最初の1か月を“有給”とし、最大で4分割の取得も可能」としているとのこと。1か月限定だとしても給与が100%もらえ、分割で取得することができれば工夫次第で仕事への影響を減らすことができるのです。
【写真】積水ハウス株式会社 執行役員 ESG経営推進本部 ダイバーシティ推進部長 山田実和さん
【写真】積水ハウス株式会社 執行役員 ESG経営推進本部 ダイバーシティ推進部長 山田実和さん
■育休取得で逆に仕事がしやすくなる?

育休で抜けた社員にも100%の給与を支払う…その戦略は利益を求める企業にとってはマイナスになるのではないかと感じます。しかし、積水ハウスには多くのメリットが生まれてました。

それは、社員たちが育休を取得するために「仕事の効率化」に取り組んだこと。1人の社員だけに仕事を集中させずチーム内で業務を分担するようになり、休んでいる社員の仕事をカバーしやすくなるなったといいます。それは育児だけでなく、様々な家庭の事情で休まざるを得なくなった社員にとっても働きやすい環境を生み好影響に働きました。
さらに、育休中の社員の仕事を分担することで、ほかの社員が新しい業務にチャレンジしスキルアップする機会にもなっていると話していました。

男性の育休取得を進めることで助け合う企業風土を作り、チーム力を高めることにもつながる。そして、病気や介護など突発的な休業へのリスクヘッジにもなり、プライベートの充実にもつながる。夫が「自分も育休を取得したかった」と話した理由は、こうした会社がもっと増えて欲しいという思いも込められていると感じました。


■積水ハウスが生み出した必勝アイテム

さて、男性が育休を取得しやすい環境が整ったらOKという訳ではありません。育休を取ったあとの家庭での取り組みも重要です。そこで紹介したいのが積水ハウスの考案した「家族ミーティングシート」というものです。
“育児は24時間年中無休”と考え、共働きの夫婦が、現状、育休中、育休終了後の夫婦の役割をどのように分担するかを「可視化」するためのものです。家事育児といっても、食事や掃除、洗濯だけでなく保育園をどうするか、自治体への手続き、家族イベントの計画などやることは多岐に渡ります。それら全てを“見える化”して役割を分担するだけでなく、育休取得のタイミングや母親の職場復帰の準備をどう進めるかなどを話し合うためにも活用できるものです。そして、この「家庭ミーティングシート」のすごいところは、どのような“わが家”を作っていきたいかを夫婦で共有できるという点です。

家事育児のほとんどを担ってきた私にとって、この「家族ミーティングシート」は驚くほど項目が細かく設定されていて「そうそう、これも家事育児だった!」と改めて気づくことが記載されています。やらなければならない家事育児が可視化されることで、パートナーが困っているとき、何を手伝えばいいのか、次は何をしておけばいいのかなども判断できるようになり、夫婦が協力しやすくなると感じました。

この「家族ミーティングシート」は、国家公務員の制度改革にも活用されているそうです。もし、自分が出産前にこのシートを使えていたならば、もっと家事育児を夫と分担し、子どもが生まれたあとの理想の“わが家”の形を作りやすかっただろうと思います。

▼「家族ミーティングシート」は以下のサイトからダウンロードができます。
https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/



■「お手本」を増やしたい

とは言え、まだまだ男性の育休取得が進まないのが日本社会の現実です。シンポジウムでは、福島県の内堀知事と県内の自動車販売会社や建設会社の経営者たちとのトークセッションも行われました。その中で、企業に限らず行政の中にも「奥さんがいるのに何で旦那さんも育休が必要なの?」といった声が少なからずあること。そうした働く現場にある「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)」を解消しなくては男性の育休取得は進まないとの意見があがりました。
その課題解決のために県庁が取り組んでいることの一つが、ロールモデル=お手本を増やしていくことです。男性職員が育休を取得することで業務が効率化しチーム力が高まった部署や、育休を活用して思い描いた家族のあり方を実現している職員など、いろいろな形でのロールモデルがあることで「こんな働き方ができるのか」という指針となります。

内堀知事はトークセッションの中で「100%を目指すのは簡単ではないけれど、まずは一歩を踏み出すことが大切。一歩踏み出すためにできることを考え、踏み出すことで見えてくるものがある。踏み出し続ければ必ず変わることができる。」と話していました。

仕事を第一優先にしなければという思いにとらわれず、必要なときに安心して休みをとることができる。家庭やプライベートを大切にしながら働くことができれば、幸せを感じながら前向きな気持ちで生活し、仕事への意欲も高まっていくのではないでしょうか。


■仕事一筋だった夫の変化…わが家はロールモデルになれるのか?

第一子を出産してから9年。仕事第一だと思っていた夫が、男性の育休取得に対して前向きな気持ちを話すようになった変化。それは言葉だけではなく、最近は行動にも表れているのを感じています。

「僕は仕事を頑張る」といっていた夫は、今では仕事の手を止めて、子どもたちと話したり、遊んだり、手が空いた時には掃除や洗濯をこなしたり、以前は「これやって」と頼まなければやらなかったことも自分から動いて対応してくれています。それは、年の近い3人の子育ては私だけでは手が回らず、必然的に夫が家事育児を担う場面が増えたことで、夫と子どもたちとの信頼関係がより強くなり、結果、夫自身の幸福感が高まったからではないかと思います。

わが家の場合、だいぶ時間がかかってしまいましたが、家事や育児に前向きになった夫を見て、以前よりも一層、家族に対しての愛情を感じ嬉しく思っています。

私は「家のことは妻がやるべき」と思い、1人で全部をやらなくてはと必死になっていましたが、もっと早くから家庭や子育てについて一緒に取り組んでいたら、夫も子どもとかかわる時間が増えて、笑顔で過ごす時間が増えていたかもしれないなと反省しています。

だからこそ私は、男性の育休取得は女性活躍のためだけではなく、男性が家族の一員として幸せを感じられるきっかけであって欲しいと願っています。そして、それはきっと“わが家のロールモデル”として子どもたちの将来にもつながっていくと感じています。

子どもが生まれたときに育休を取得することが、働く職場の環境を良くし、家族とのかかわりを深める第一歩となる。まずは、第一歩を踏み出すことから始めたいと思います。


【取材・執筆】ケイリーパートナーズ 木村倫子


※この記事はケイリーパートナーズと福島中央テレビの共同連携企画です。
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