展示構成

第1章:水墨画

水墨画は、濃淡の調節が容易な墨という素材を用いて、対象の立体感や遠近感、微妙な大気や光の状態を表現することを特徴とします。その始まりは中国・唐時代に遡り、日本には奈良時代から導入が始まりました。鎌倉時代、さかんになった日中貿易の影響で禅文化が興隆する中、鎌倉や京の禅寺には、中国からの渡来僧とともに水墨画が数多くもたらされました。その後も水墨画愛好の熱は衰えず、室町時代の足利将軍家には多数の名品が蓄積されました。こうした美術文化は徳川将軍家にも継承され、南宋から元の中国絵画の様式は、14 世紀から17 世紀までの日本絵画の大きな柱になっています。本章では、戦国期・16 世紀に活躍した絵師を中心に、アメリカでも愛された水墨画の世界をご紹介します。

花鳥図屛風 雪村周継 Gift of funds from Mr. and Mrs. Richard P. Gale

第2章:狩野派の時代

狩野派は、血縁で繋がる「狩野家」を中心とした専門の絵師集団です。室町時代以降、権力者の庇護を受けながら発展しました。江戸時代、政治の中心が江戸になると狩野派も本拠地を京か江戸へ移します。狩野永徳(1543-90)の孫・狩野探幽(1602-74)は、江戸幕府の御用絵師となり、「瀟洒淡麗」なスタイルで狩野派に革新をもたらしました。江戸時代を通じて幕府や各藩の御用をつとめた狩野派は、まさに画壇を制する画派へと成長します。一方、永徳の門人・狩野山楽(1559-1635)と山楽の養子・狩野山雪(1590-1651)の一統は、京に留まり、探幽とは異なる個性的な作品を描きました。本章では探幽や山雪・山楽らの作品を通じて、狩野派の軌跡を特集します。

群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵) 狩野山雪 The Putnam Dana McMillan Fund

瀟湘八景図屛風 狩野探幽 Gift of the Clark Center for Japanese Art & Culture

第3章:やまと絵 ―景物画と物語絵―

平安時代、「唐(漢)」に対する「やまと(和)」の自覚を背景に、日本の風俗を主題とする「やまと絵」が誕生しました。発生当初のやまと絵は、中国的主題の「唐絵」に対する日本的主題の絵画を意味するものでしたが、次第に日本独自の絵画様式へと発展します。13世紀後半に南宋絵画が広く受け入れられ、それらが「唐絵」と呼ばれるようになると、それまでの伝統的な絵画はすべて「やまと絵」と称されることになりました。水墨を主とする唐絵に対して、濃厚な彩色による装飾性がやまと絵の特徴であり、四季の風物を描いた屏風絵などの大画面と、『源氏 物語』に代表される古典文学を描いた絵巻などの小画面に大別されます。ミネアポリス美術館には、屏風絵の優れた作品が多く収蔵されています。

武蔵野図屛風 Mary Griggs Burke Collection, Gift of the Mary and Jackson Burke Foundation

第4章:琳派

琳派は17世紀初頭に活躍した俵屋宗達(生没年不詳)を始まりとします。王朝文化復興の気運が高まる時代、料紙装飾などを手掛けた宗達は、伝統的な作品からモチーフを抜き出してデザイン化し、たらし込みの技法などを駆使した特色ある作風を生み出します。その作風は宗達に私淑した尾形光琳(1658-1716)へと受け継がれ、その後、光琳に私淑した酒井抱一(1761-1829)へと続きます。抱一は江戸ならではの俳諧的な知性を加えた独自の作風を確立し、その弟子たちによって江戸琳派が形成されました。本章では宗達や抱一、抱一の高弟であった鈴木其一(1796-1858)らを中心に日本絵画を代表する琳派芸術の美を特集します。

虎図 伝 俵屋宗達 Gift of Harriet and Ed Spencer

第5章:浮世絵

江戸時代、大都市に発展した江戸において独自に花開いた新しい芸術が浮世絵版画です。菱川師宣(1618?-94)に始まるといわれる浮世絵は、市場の組織化と版元を中心とした絵師・彫師・摺師による分業体制の確立により、江戸を代表する美となります。最初期の版元が江戸の中心地である日本橋近辺にあったため、浮世絵は江戸の人々だけでなく、地方の旅人たちにも求められました。墨摺から多色摺へと発展していった浮世絵版画は「錦絵」とも呼ばれ、名だたる絵師たちが活躍した19世紀半ばには、版元の数は260を超えたとされます。本章では、ミネアポリス美術館が誇る浮世絵コレクションから選りすぐりの名品をご紹介します。

市川鰕蔵の竹村定之進 東洲斎写楽
Bequest of Richard P. Gale

冨嶽三十六景 凱風快晴 葛飾北斎 Gift of Louis W. Hill, Jr.

第6章:日本の文人画〈南画〉

日本の文人画〈南画〉は、江戸時代中期以降、中国の知識人である文人への共感や、明・清代の中国絵画に憧れた人々によって描かれた絵画です。当時、画壇を支配していた狩野派に代わる自由な創造性をもった絵画を求める気運が高まり、また、黄檗宗の伝来や儒学・漢詩文の普及に伴って中国文化への理解が幅広い階層で深まっていました。中国風の理想郷が描かれた山水画をはじめ、自らの旅の経験や実際の景色を見た感興が込められた真景図など、数々の魅力ある作品が生まれます。日本独自に発展した日本の文人画〈南画〉は東北から九州まで各地に広まることとなり、江戸絵画史に新機軸をもたらしました。

春秋山水図屛風 浦上春琴 Mary Griggs Burke Collection, Gift of the Mary And Jackson Burke Foundation

第7章:画壇の革新者たち

江戸時代後期、文人画〈南画〉や写生画など、既存の流派や様式にとらわれない絵師たちが存在感を示しました。なかでも近年高い人気を誇る伊藤若冲(1716-1800)や曾我蕭白(1730-81)に代表される「奇想」の絵師は、極端にデフォルメした構図の水墨画や細密な濃彩画によって独自の境地をひらきました。これらの作品は、かつて評価が高くない時代もありましたが、アメリカをはじめ在外の日本美術愛好家によって優品の数々が収集され、散失することなく今日まで伝えられています。本展では、中国画や西洋画の影響を受けて、多彩な江戸絵画を生み出す契機となった長崎派の作品も併せて紹介します。画壇を革新した絵師たちの挑戦をご覧ください。

群鶴図屛風 曾我蕭白 Gift of Elizabeth and Willard Clark

第8章:幕末から近代へ

明治になると西洋の影響を受け、日本の絵画は大きく変容しました。伝統の技法や画派を継承する「日本画」と、油彩画や水彩画など西洋の技法を用いる「洋画」というあたらしいカテゴリーが誕生し、浮世絵を母体とした新版画、創作版画も加え、日本の近代美術は多様な展開をみせていきます。欧米の近代美術コレクションは日本美術の中では限定的ではありますが、ミネアポリス美術館では、海外でも評価が高い河鍋暁斎(1831-89)や、渡辺省亭(1852-1918)、狩野芳崖(1828-88)らの作品を所蔵しています。浮世絵の流れをくむ美人画や、新版画の作品が多いのも特徴です。本展では、明治前期に渡米した青木年雄(1854-1912)のような、アメリカの美術館ならではの作品もご紹介します。

巨鷲図 狩野芳崖
Gift of the Clark Center for Japanese Art & Culture;
formerly given to the Center in memory of Gail Liebes,
a woman with a passion for art and a love of Japan,
from her husband John, and her children Alison and Christopher

※ページ冒頭の画像について

上段左. 伝 俵屋宗達/虎図 Gift of Harriet and Ed Spencer 上段中央. 葛飾北斎/冨嶽三十六景 凱風快晴 Gift of Louis W. Hill, Jr. 上段右. 伊藤若冲/旭日老松図 Gift of the Clark Center for Japanese Art & Culture 中段左. 雪村周継/花鳥図屛風 Gift of funds from Mr. and Mrs. Richard P. Gale 中段右. 東洲斎写楽/市川鰕蔵の竹村定之進 Bequest of Richard P. Gale 下段左. 狩野山雪/群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵) The Putnam Dana McMillan Fund 下段中央. 曾我蕭白/群鶴図屛風 Gift of Elizabeth and Willard Clark 下段右. 谷文晁/松島図 The John R. Van Derlip Fund; purchase from the collection of Elizabeth and Willard Clark [すべて部分]