2020.10.07
Obori Somayaki, popular abroad as Double Cup
私はこう見えて(?)報道部の管理職です。放送局は土日も仕事があるので、アナウンサーのシフト(どのアナウンサーに何の仕事をしてもらい、いつ休んでもらうかなど)を割り振る役目を担当しています。先月末、『ゴジてれChu!』第一部を作っている制作陣から「リポーターを出してほしい」という発注が立て込みました。大抵こういう取材は経験を積ませる意味でも若手から中堅のアナウンサーに割り振るのですが、或る日だけはどうしても人が回りません。そうなると最後は「代打、俺」状態になる訳です。
今回紹介する焼物。マグカップの側面に8頭の馬、底には左馬。合わせて「馬九行久(うまくいく)」と縁起が良い。 |
という事で、今回は『ゴジてれChu!』の毎月第1・3水曜日に新潟と結んでお伝えする「ばんえつ横断お国自慢!」のコーナーのリポーターを担当しました。きょう放送分のテーマは「日常を華やかにする逸品自慢」。そこで福島からは、浪江町(なみえまち)の大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)をご紹介しました。
撮影風景。こうやって一品一品撮影していく。 |
大堀相馬焼は浪江町の旧大堀村を中心に江戸時代から生産が続いていて、国の伝統的工芸品にも指定されています。
典型的な「大堀相馬焼」。3つの特徴が出ている。 |
一番知られる特徴は、ひびの模様と、二重構造と、馬の絵です。
ひびは釉薬をかけて焼いた後、冷める際に釉薬と素材との収縮率の違いで入る模様です(因みにこのひびが入る時に、高く綺麗な音「貫入音(かんにゅうおん)」がします。これは「うつくしまの音30選」にも選ばれています)。
ひびは釉薬をかけて焼いた後、冷める際に釉薬と素材との収縮率の違いで入る模様です(因みにこのひびが入る時に、高く綺麗な音「貫入音(かんにゅうおん)」がします。これは「うつくしまの音30選」にも選ばれています)。
こちらは湯呑み。外側にだけハート型(?本当の意味は後述)の穴があく。 |
またこちらを見てもお分かりのように、二重構造をしています。そのお陰で、持つ外側は熱くなく、注いだお茶などは冷めにくい、という優れものなのです(なお大堀相馬焼の全てが二重構造やひびが入っている訳ではありません)。
二重構造なので、外に穴があいていても、中身は当然漏れない。 |
しかし浪江町はご存じのように原発事故で避難生活を送り、まだ一部避難区域もあります。大堀相馬焼の窯元も避難生活を強いられましたが、25あった窯元の内、福島県内では10の窯元が避難先で大堀相馬焼の灯を絶やすまいと、生産を続けています。
今回お邪魔した松永窯。いまは西郷村に店舗兼事務所を構える。 |
今回お邪魔した松永窯も、その一つです。福島県の南部、西郷村(にしごうむら)で再出発をしています。ではなぜ数ある窯元の中でも松永窯にお邪魔したのかと言うと、ちょっと珍しい大堀相馬焼に挑戦しているからなのです。それは、こちら。
店内。様々な大堀相馬焼が並ぶ。 |
今までの手描きの馬にとらわれず、色んな分野で活躍する人がデザインした馬の絵を、大堀相馬焼にしてしまおうという企画です。名付けて「KACHI-UMA(勝ち馬)」。
「元々は息子の発想なんですけど。」
と語るのは、松永窯三代目の和生さん。
「元々は息子の発想なんですけど。」
と語るのは、松永窯三代目の和生さん。
こちらが |
「最初はどんなのが出来るのか不安もありましたが、出来上がってみると、良いですね。」
大堀相馬焼は普通素焼き、釉薬をかけての本焼きと、二度焼きするのですが、KACHI-UMAについてはそれにもう一度、デザインされた絵柄を表面に施し(転写)焼くので、三度焼きの手間がかかっています。
その絵柄を貼り付けるのは、奥様の役目です。三代目は、
「こんなに細かい仕事は出来ないんで、これに関しては妻に任せっきりです。」
奥様曰く
「よれたり曲がったり、空気が入ったりすると駄目なんです。」
神経を使う仕事のようです。
デザインを手がけたのは、作家やデザイナーなど10人。
「穴の部分は、この高さに、この向きで、幾つ付けて欲しいと言った注文がある訳です。デザイン画とのバランスやこだわりがあるんでしょうね。でもこっちはそこまで気にしてやった事が無かったので…。」
三代目はそんなやりとりの中で、大堀相馬焼の新たな可能性や魅力も感じたようです。
大堀相馬焼は普通素焼き、釉薬をかけての本焼きと、二度焼きするのですが、KACHI-UMAについてはそれにもう一度、デザインされた絵柄を表面に施し(転写)焼くので、三度焼きの手間がかかっています。
その絵柄を貼り付けるのは、奥様の役目です。三代目は、
「こんなに細かい仕事は出来ないんで、これに関しては妻に任せっきりです。」
奥様曰く
「よれたり曲がったり、空気が入ったりすると駄目なんです。」
神経を使う仕事のようです。
デザインを手がけたのは、作家やデザイナーなど10人。
「穴の部分は、この高さに、この向きで、幾つ付けて欲しいと言った注文がある訳です。デザイン画とのバランスやこだわりがあるんでしょうね。でもこっちはそこまで気にしてやった事が無かったので…。」
三代目はそんなやりとりの中で、大堀相馬焼の新たな可能性や魅力も感じたようです。
松永窯三代目と奥様。 |
例えばこちらの3つ。一番右はデザイナーの寺内ユミさんのデザイン。線だけで馬を描いていていますが、教会などで見かけるモザイク画を想起させるようでもあります。また大堀相馬焼の太いひびのようでもあり、すごくしっくり来ます。
真ん中は、ファッションデザイナーの井上セイジさんのデザイン。馬を全て赤い星で描いています。三代目も
「(うちの)大堀相馬焼で、星がデザインされたのは初めてですね。」
斬新で、目の付け所が違うんですね。
真ん中は、ファッションデザイナーの井上セイジさんのデザイン。馬を全て赤い星で描いています。三代目も
「(うちの)大堀相馬焼で、星がデザインされたのは初めてですね。」
斬新で、目の付け所が違うんですね。
左の中野聡美さんデザインの馬は、一筆書き。内側には縁起が良いとされる「馬蹄」も。 |
三代目が最も気になったデザインが、こちら。
「林の中に馬が2頭いるんですよ。」
馬のシルエットと木立を同じ色の線で表現。更に湯呑みを黒にする事で、一層コントラストが明確になります。
私には林の中というよりは、秋の枯れかかった丈の高い藪の中を、色も姿も紛れるように進む馬のようにも感じます。このあたり、見る人の自由な感じ方に任されているのでしょう。インテリアデザイナー、ナカダシロウさんのデザインです。
「林の中に馬が2頭いるんですよ。」
馬のシルエットと木立を同じ色の線で表現。更に湯呑みを黒にする事で、一層コントラストが明確になります。
私には林の中というよりは、秋の枯れかかった丈の高い藪の中を、色も姿も紛れるように進む馬のようにも感じます。このあたり、見る人の自由な感じ方に任されているのでしょう。インテリアデザイナー、ナカダシロウさんのデザインです。
線のみでのデザイン。闇夜にシルエットだけ浮かぶようにも見える。 |
個人的には、馬に熊ちゃんが乗ったデザインが気になりました。大堀相馬焼の馬の背に何かが乗ったデザインは、珍しいのではないでしょうか。私は初めて見ました。何だか名前の「KACHI-UMA」に肖って、熊ちゃんみたいに勝ち馬に乗って今後の人生を過ごしたいな…なんて欲望がよぎったりして…。今どきのカワイイ要素もしっかり入っていると思います。
「確か、マーブルチョコレートのキャラクターのデザインをした人だった筈ですよ。」
調べてみたら、これをデザインしたイラストレーターたかいよしかずさんは、マーブルチョコレートのキャラクター「マーブルわんちゃん」をデザインした方でもありました。
ディレクターが撮影中突然、三代目と私に
「徳光がお茶を飲むシーンに使ってほしい湯呑みは、KACHI-UMAの10種類の内どれ?」
と言った時、三代目はナカダさんの湯呑みを、私はたかいさんのそれを指さしていました。
普段は湯呑みを、お茶を飲むための器としてしか見なくなってしまっていますが、こういうデザインの湯呑みだと、ついデザインを眺めてお茶を飲む時間が豊かになったり、更に楽しくなったりしそうではありませんか。
「確か、マーブルチョコレートのキャラクターのデザインをした人だった筈ですよ。」
調べてみたら、これをデザインしたイラストレーターたかいよしかずさんは、マーブルチョコレートのキャラクター「マーブルわんちゃん」をデザインした方でもありました。
ディレクターが撮影中突然、三代目と私に
「徳光がお茶を飲むシーンに使ってほしい湯呑みは、KACHI-UMAの10種類の内どれ?」
と言った時、三代目はナカダさんの湯呑みを、私はたかいさんのそれを指さしていました。
普段は湯呑みを、お茶を飲むための器としてしか見なくなってしまっていますが、こういうデザインの湯呑みだと、ついデザインを眺めてお茶を飲む時間が豊かになったり、更に楽しくなったりしそうではありませんか。
左が私の気に入ったデザイン。くろうまにくろくまが乗っている。 |
因みに二重焼の大堀相馬焼の外側に開いているこの穴は、元々海や干潟などにいる「千鳥」を表現したものだそうです。だいぶ簡略化した鳥のシルエットを表していたのでしょう(ひよこのお菓子みたいな感じでしょうか)。
馬の下に波が描かれ、「千鳥」型の穴があく。 |
「大堀相馬焼のデザインは『波に千鳥』なんです。その千鳥が、海外輸出をきっかけにハート型という風(な説明)になっていって…。」
なるほど。ハート型と見ても「カワイイ」の範疇に入りますから、これはこれでまた、外国の人には今風の日本らしさを感じるかも知れませんね。
なるほど。ハート型と見ても「カワイイ」の範疇に入りますから、これはこれでまた、外国の人には今風の日本らしさを感じるかも知れませんね。
波に千鳥は、太平洋に面した浪江町らしいデザインだ。 |
三代目に浪江町を離れて大堀相馬焼を作っている時の気持ちを聞くと、
「何もしていない時だと、故郷に帰りたくても帰れないのでいらいらする事があるんです。でも大堀相馬焼に関わっている時間は、それに集中できるので、いらいらしないんです。」
まだ自分の本当の家に帰れないストレスを、避難している方々は抱えているのです。
「何もしていない時だと、故郷に帰りたくても帰れないのでいらいらする事があるんです。でも大堀相馬焼に関わっている時間は、それに集中できるので、いらいらしないんです。」
まだ自分の本当の家に帰れないストレスを、避難している方々は抱えているのです。
急須と湯呑み。急須も二重構造で冷めにくい造りだ。 |
「ただこっち(西郷村)で長くなると、周りの人も『ここに残ったら良いじゃないの』って言ってくれるんです。だからどっちにしようか、迷います。本当はいつまでに帰れるのか分かれば、残りの(故郷で過ごせる)時間が見えてくるじゃないですか。そうすれば(どっちで過ごそうか)決断出来るのでしょうが、いつまでに帰れるのかがいまだに分からないですからね…。」
西郷村の人に感謝しつつ、望郷の念が「仮」の字にこもる。 |
そんな三代目の楽しみの一つはお酒です。勿論、器は大堀相馬焼です。
「これだと外から中身が見えないから、お酒飲んでても分からないでしょ…。」
「これだと外から中身が見えないから、お酒飲んでても分からないでしょ…。」
タンブラー等、大堀相馬焼は日常に使う器らしく、様々な種類がある。 |
高校時代は私も早弁をしましたが、三代目はお休みには早酒をする事もあるのでしょうか?二重構造だと熱燗でも冷酒でも保温されて、望む温度のお酒を長く楽しめそうですね。
とっくりも二重構造。これからの季節には良いかも…。 |
ほかにも松永窯(店内)では、市町村の名物・特産をデザイン化した豆皿や、それらを会津・中通り・浜通りの3地方に分けて描いた湯呑み、
町の特産等をデザイン。例えば下列右から2つ目は、葛尾村の「凍み餅」(蒲鉾型の餅を吊るした様子) |
また東京オリンピック・パラリンピックの公式ぐい呑み3個セットも扱っています。
これらの湯呑み・ぐい呑みはいずれも二重焼です。
これらの湯呑み・ぐい呑みはいずれも二重焼です。
東京オリ・パラの公式グッズとして売られている大堀相馬焼。 |
特にぐい呑みは、中の形が3通りに分かれていて、ストレート・ナロウ・ラウンドが、外の組市松紋の濃淡で横からでも見分けられます(反対側にオリンピックやパラリンピックのマーク入り)。
二重構造でしかも内側は、3種類の形に分かれる(酒の味わいや香りが、違って感じられる…らしい)。 |
これらはネットで取り寄せも出来ますし、また窯元に行って、実際に手に取って見て、お気に入りの一品を選んでみるのも、焼物選びの楽しみかも知れませんね。
詳しくは「松永窯」(または「KACHI-UMA」)で検索してみてください。
詳しくは「松永窯」(または「KACHI-UMA」)で検索してみてください。
夫婦二重湯呑みも。贈答にも好さそうだ。 |
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