2019.12.29
Brighton
今年も残すところ、あと僅かですね。今年も中テレをご覧頂き、有難う御座いました。
私も漸く年賀状も書き終え、きょうで仕事納め、一段落です。そんな時間が空く年末年始、皆さんはどう過ごしますか?勿論中テレを見て過ごして頂ければ幸甚ですが、車や列車の移動などで必ずしもテレビが見られない時もあるでしょう。そこで私が読んで面白かった本を一つご紹介致します。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ著(新潮社 1350円税別)
或る番組で紹介されていたのを機に手に取ってみた一冊。
著者は日本人で英国人(アイルランド人)と結婚し、中学生の息子がいる英国暮らしの人。その息子がカトリックの小学校から、ストレートで上に上がらず、公立の「元底辺中学校」に進学するところから話が始まる。すると息子の学校生活を通して社会の色々な問題が見え、息子も学校生活でそういった問題に直面し、悩みながらその時その時の対応策を見つけていく…そんな息子と母親の記録なのだが、これがよその国の出来事でありながら、我が身を振り返させられるのだ。
移民と人種差別の問題、階級格差社会の問題、家庭に問題のある家の子育てと支援、アイデンティティやジェンダー(社会的・文化的性別)の問題…。どれも自分達の既に抱えている、或いはこれから抱えていくであろう問題ばかりだ。
しかも中学生の息子の考え方、感じ方、対応策がまた何とも瑞々しく、頼もしく、凄いのだ。
学ぶべき事も多い。例えば差別・格差・いじめの問題に対し、「相手を思いやる事」「共感する事」はそれらを減らしたり無くしたりする為に大事な事の一つであろう。英国ではそこを深く考える“教育”をしている。しかもそのエピソードに対し、著者はsympathyとempathyの違いに言及していく。この著者の説明が非常に分かり易く、「思いやる事・共感する事」をもっと深く考える切っ掛けを作ってくれる(言語で違いが明確になっているあたりが、合理主義のヨーロッパ・英国らしいとも言える)。
また英国や英文学などに興味がある人には、今の英国社会や英国人の思想・文化が見えてくる本にもなっている。そしてそれは同時に、今の日本の良さや弱さ、足りないところが見えてくる事でもある。まさに「鏡」だ。
アイデンティティについても、中学生の息子の感覚は実に鋭い。アイルランド人の父と日本人の母との間に生まれた故の、豊かさと多様さと葛藤が、彼のアイデンティティにはある。そして校長と著者との会話の中で、校長はアイデンティティについてこう話すのだ。
「どっちかじゃないといけないんですかね?」
お気付きの通り、タイトルの『ぼくはイエローで、ホワイトで』は違う国の(違うアイデンティティの)夫婦の間に生まれた事を指す、中学生の息子の言葉。そして『ちょっとブルー』にはどんな意味があり、本が進むにつれそのブルーは…。
これは連載の一部で、この本の刊行後も続いているそうだ。大事な問題を(母子の目を通して、だからだと思うが)堅苦しくなく、身近に感じながら読み進められる。続編が楽しみ。
話はそれるが(いや、それていないかも知れない)、この親子の住んでいるのはイギリスのブライトンという町。そこで思い出した本がある。
『ブライトン・ロック』グレアム・グリーン著
人の感情の残酷さ、そして善と悪の問題を、サスペンス仕立てで味わえる文学作品だ(こちらは結構内容が重いので、読むのは年末年始ではない方が好いかも…)。この本の内容を思い返して、前述の『ぼくは…』の中に出てくる、息子の言葉にはっとさせられた(内容がばれないよう、前後を略して紹介します)。
「…罰するのが好きなんだ」
真理と共通点に、ぞわっとして頂ければ、これぞ読書の醍醐味です。
それでは、良いお年をお迎えください。
私も漸く年賀状も書き終え、きょうで仕事納め、一段落です。そんな時間が空く年末年始、皆さんはどう過ごしますか?勿論中テレを見て過ごして頂ければ幸甚ですが、車や列車の移動などで必ずしもテレビが見られない時もあるでしょう。そこで私が読んで面白かった本を一つご紹介致します。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ著(新潮社 1350円税別)
或る番組で紹介されていたのを機に手に取ってみた一冊。
著者は日本人で英国人(アイルランド人)と結婚し、中学生の息子がいる英国暮らしの人。その息子がカトリックの小学校から、ストレートで上に上がらず、公立の「元底辺中学校」に進学するところから話が始まる。すると息子の学校生活を通して社会の色々な問題が見え、息子も学校生活でそういった問題に直面し、悩みながらその時その時の対応策を見つけていく…そんな息子と母親の記録なのだが、これがよその国の出来事でありながら、我が身を振り返させられるのだ。
移民と人種差別の問題、階級格差社会の問題、家庭に問題のある家の子育てと支援、アイデンティティやジェンダー(社会的・文化的性別)の問題…。どれも自分達の既に抱えている、或いはこれから抱えていくであろう問題ばかりだ。
しかも中学生の息子の考え方、感じ方、対応策がまた何とも瑞々しく、頼もしく、凄いのだ。
学ぶべき事も多い。例えば差別・格差・いじめの問題に対し、「相手を思いやる事」「共感する事」はそれらを減らしたり無くしたりする為に大事な事の一つであろう。英国ではそこを深く考える“教育”をしている。しかもそのエピソードに対し、著者はsympathyとempathyの違いに言及していく。この著者の説明が非常に分かり易く、「思いやる事・共感する事」をもっと深く考える切っ掛けを作ってくれる(言語で違いが明確になっているあたりが、合理主義のヨーロッパ・英国らしいとも言える)。
また英国や英文学などに興味がある人には、今の英国社会や英国人の思想・文化が見えてくる本にもなっている。そしてそれは同時に、今の日本の良さや弱さ、足りないところが見えてくる事でもある。まさに「鏡」だ。
アイデンティティについても、中学生の息子の感覚は実に鋭い。アイルランド人の父と日本人の母との間に生まれた故の、豊かさと多様さと葛藤が、彼のアイデンティティにはある。そして校長と著者との会話の中で、校長はアイデンティティについてこう話すのだ。
「どっちかじゃないといけないんですかね?」
お気付きの通り、タイトルの『ぼくはイエローで、ホワイトで』は違う国の(違うアイデンティティの)夫婦の間に生まれた事を指す、中学生の息子の言葉。そして『ちょっとブルー』にはどんな意味があり、本が進むにつれそのブルーは…。
これは連載の一部で、この本の刊行後も続いているそうだ。大事な問題を(母子の目を通して、だからだと思うが)堅苦しくなく、身近に感じながら読み進められる。続編が楽しみ。
話はそれるが(いや、それていないかも知れない)、この親子の住んでいるのはイギリスのブライトンという町。そこで思い出した本がある。
『ブライトン・ロック』グレアム・グリーン著
人の感情の残酷さ、そして善と悪の問題を、サスペンス仕立てで味わえる文学作品だ(こちらは結構内容が重いので、読むのは年末年始ではない方が好いかも…)。この本の内容を思い返して、前述の『ぼくは…』の中に出てくる、息子の言葉にはっとさせられた(内容がばれないよう、前後を略して紹介します)。
「…罰するのが好きなんだ」
真理と共通点に、ぞわっとして頂ければ、これぞ読書の醍醐味です。
それでは、良いお年をお迎えください。
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