【神尾佑酒に交われば】廃業寸前だった蔵が醸す金賞受賞酒酒造りの素人が立て直す会津美里町の「男山酒造店」

Chu! PRESS

2024.01.18

福島県出身の俳優・神尾佑（ゆう）さんが県内の酒蔵を訪ね、その酒蔵にまつわる物語を紐解いていく番組「神尾佑酒に交われば」。
日本酒王国福島県には、50を超える酒蔵がある。今回訪れたのは、会津美里町の「男山酒造店」。長年の休業から復活して奮闘する酒蔵、その夢の途中の物語だ。

この笑顔の裏に、決断と奮闘がある

「東北清酒鑑評会」の「吟醸の部」、そして「純米の部」で優等賞！撮影にお邪魔した日、スタッフが居合わせたのは、そんな喜びの瞬間だった。酒造りは、小林靖社長の妻・真由子さんや1年目の新人を含めて総勢わずか6人。4年目の仕込みが始まるところだ。

復活して早々の快挙を次々と！

設備投資もままならないまだまだ小さな酒蔵だが、「全国新酒鑑評会」でも2年連続で金賞を受賞している。酒造りにおいては、全国に一歩も引けを取らない酒蔵、それが人口約2万人の会津美里町にある「男山酒造店」。レンガ造りのレトロな煙突がシンボルだ。

生産休止して以来、長く深い眠りの中にいた

千葉県船橋市で生まれ育った小林社長。この酒蔵は母の実家で、幼少期は夏休みなどに遊びに来ていた大好きな場所だ。しかし、1989年に杜氏が体調を崩したことにより、叔父にあたる先代社長は生産休止という難しい決断をした。

IT企業からの転身…！

酒蔵は、その後も先代が守り続けて20年の歳月が流れた。同じ20年ほどを東京でIT系のサラリーマンとして過ごしていた小林社長の人生を一変させたのは、「ここを更地にしようと思っている」という一言だった。そして「男山の歴史を継げないかな」という想いで、脱サラしてこの地にやって来ることに。

20年間眠っていた昔ながらの道具があちらこちらに

両親も家族も千葉で生活し、マイホームも建てたばかり。周囲は猛反対だった。なかでも最も反対していたのが妻。小林社長は、先の見えない不安を払拭するためにも、一つひとつ行動を起こしていった。まずは「この酒蔵が再生できるか」の確認から。福島県で「日本酒の神様」と言われている鈴木賢二さんに相談して現場を見てもらったところ、「できるよ！ただ、最低限の設備投資は必要だね」という見解を示された。

酒造りの知識や技術を指導してもらう

「酒造りができる」とわかったことで、6年前に会社を辞め、単身会津へ。「修行もしたい」と鈴木さんに相談すると、会津若松の老舗酒蔵を勧められた。そこの蔵元は「2年の修行が終わったら自分で造り始めるんだから、全部見ていけ！すべて覚えていけ！」と言ってくれたという。同時に、県の「清酒アカデミー」にも入校した。

あらゆる課題を一つひとつクリアに

資金繰りや改修工事に加え、「そもそも杜氏はどうするのか？」といった課題が山積。そんな中、鈴木さんから「同じ町に、引退してだいぶ経つけれど凄腕の杜氏さんがいらっしゃる」という話が。それが「会津杜氏会」の礎を築き上げた猪俣一徳さん72歳だ。「ここで酒が造れるのかな？」というのが酒蔵の率直な感想だったというが、小林社長と鈴木さんの熱意に心動かされ、杜氏を引き受けた。これで、役者はそろった。

地元の醸造元を渡り歩いてきた

不安にかられる妻も説得し、4年前の春には家族全員で千葉県から移住。退路を断ち切って始まった酒造りだ。

家族の覚悟を、たくさんの人が支えている

20年眠っていた酒蔵。仕込み蔵には、昭和の年号が刻まれたタンクがある。ここにハイテク設備などない。冷却装置も、自分たちで手巻きしたホースだ。

最新設備はなくても、努力と工夫で解決できる

社長が酒のイメージを伝え、それを杜氏が表現する。傷んだ酒蔵を蘇らせ、腕利きの杜氏が醸した初めての酒。猪俣さんが注いでくれて「はい、社長！」と最初に飲ませてもらった時は、号泣して味がわからなかったという。

頼れるベテランに支えてもらう、素人の酒造り

たくさんの人の支えを受けて復活した「男山酒造店」は、1年目から高い評価を受けてきた。「キツかった酒造り。みんなの苦労が報われている」と小林社長は話す。

では、総勢6人で仕上げた「再生の酒」、20年の深い眠りから覚めた一杯をいただこう。まずは、「全国新酒鑑評会」で金賞を受賞した「純米大吟醸会津男山回（かい）」から。

ラベルには磐梯山

香りが良くて華やかで、フルーティーさと程良い甘味が感じられる。「喉越しのキレがすごくいい！」と神尾さんは話す。

そして…「素人が酒造りを始めるということで、さまざまな方が助けてくれた。人の輪を大切にしたい」と話す小林社長が、その気持ちを忘れぬよう名付けた、原点回帰の「回」。3本並べると、そこには磐梯山が浮かび上がる。会津への感謝の想いを込めたという。

会津の地や周りの人への感謝の意が込められた3本

真ん中の「純米吟醸会津男山回」は、力強さを感じる一杯だ。「米の旨みと吟醸酒の華やかさ、そしてフルーティーさが拮抗している」と、神尾さんもそのおいしさに舌鼓を打つ。

3本の味わいの違いも堪能してみたい

復活してわずか3年。自信作を生み出す背景には、千葉から移住してきた一家を支えようと手を差し伸べる人々や、酒蔵の想いをお客さんに伝えてくれる各地の酒販店の姿がある。そんな温かい想いには、丁寧に造りあげた酒で恩返しを…。廃業寸前の蔵を立て直している酒造りの素人の奮闘が、今後も楽しみだ。

Chu!PRESS編集部

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