「はみだしてもいいんだ」魔法の足が描き出す躍動感！いま福島県で注目される創作プロジェクトとは

Chu! PRESS

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2022.10.01

福島県会津地方の郷土に伝わる伝統工芸品「赤べこ」を描いたこちらの作品。画面からはみだし、いまにも動き出しそうな躍動感が伝わってきます。日本国内で月間８，９００万人が利用するコミュニケーションアプリ「LINE」のスタンプとしても販売されているものですが、この作品は足の指で筆を握って描かれたものなんです。今回の記事では、この作品がどのような思いで描かれたのかをリポートしていきます。

作品を手掛けたのは、郡山市の障がい者福祉施設に通う森陽香（もりはるか）さん。これまでに様々なアート作品を世に送り出し、「Art to You!東北障がい者芸術全国公募展」で福島県知事賞を受賞するなど、数々の芸術作品展で高い評価を受ける注目のアート作家です。

幼い頃に脳性麻痺になり両腕が不自由な森さんは、子どもの頃は絵を描くことはあまり好きではなかったといいます。「私は手がうまく使えないから、絵を描く時間が苦手でした」と話す森さん。当時は周りの目が気になり、手で筆を持って絵を描いていました。

しかし、小学校３年生のとき、担任の先生の一言で森さんの考え方が変わります。
「絵は体のどこを使って描いてもいいんだよ。足の指でもいい。」
その言葉で森さんは、利き足である右足の指で筆やペンを握って絵を描き始めました。すると、自分の描きたいものをどんどん表現できるようになっていき、絵を描くことが好きになっていきました。

森さんの作品は、生き物をモチーフに鮮やかな色使いで輪郭線を描かない大胆な筆跡が特徴。その表現方法は、森さんが学校を卒業し福祉施設に通うようになってから更に磨きがかかります。

森さんが通う社会福祉法人安積愛育園は、障がいのある人たちが自分らしく前向きに生活できるようにと“創作活動”などを行う地域生活サポートセンター「パッソ」を運営しています。そこではアトリエや様々な画材が用意され、スタッフたちがその使い方などをサポートしているんです。

（写真右）地域生活サポートセンター「パッソ」のスタッフ佐藤剛さん

スタッフの佐藤剛さんに話を聞くと、障がい者福祉施設での事業は、これまでは文房具の組み立てなど単純な作業が多かったといいます。しかし、利用者の中にはそうした作業を苦手とする人もいて、どうすれば有意義に過ごせるかと考えた結果、アートや音楽などを通して自己表現をする環境づくりに力を入れてきたそうです。そうした中で安積愛育園では、２００９年に「unico（ウーニコ）」という創作活動プロジェクトを始め、アートを通じた社会参加を目指した活動を積極的に展開。「unico(ウーニコ)」とはイタリア語で「唯一の」「ひとつの」という意味で、施設に通う人たちが数多くの個性的な作品を生み出しているんです。

「ここに来たばかりの頃は習った技法にとらわれていましたが、“はみ出していいんだ”とスタッフに言ってもらい、どんどん描き方が変わっていきました。」と話す森さん。
「はみ出していいんだ」
そのスタッフの言葉で、森さんの作風にはさらに躍動感が生まれ、足の指を使って描かれたキャンバスの中の動物たちに生命力が宿るようになったと言います。そして、スタッフのアイディアからunicoメンバーの作品でコミュニケーションアプリ「LINE」のスタンプを作ることにもなりました。森さんは「家族とLINEでやりとりすることが多いので嬉しかったです。発売してすぐ買って、母にもプレゼントしました」と嬉しそうに話していました。

＜画像：販売しているLINEスタンプの告知用チラシ＞

作品の商品化はLINEのスタンプだけではありません。

「スタッフがやりたいことではなく、描きたいものを利用者さんが描いて、スタッフがこのデザインだったらヘアゴムがいいとかマグネットがいいということを考えて、商品化もしています。」と話すスタッフの佐藤さん。

絵を描くだけでなく、外部企業の協力なども得ながらバッグやアクセサリーなどの商品化にも取り組んできました。さらに、作品が市内のレストランに飾られたり、フランスのパリで開かれた展覧会で紹介されたりなど、様々な場面で作品が展示されています。スタッフの佐藤さんは「大人数ではなく少人数で、一人一人の個性を大切にしたい。この活動をと通して、誰もが安心して暮らせるまちづくりができたらと思います」と今後の活動への意気込みを話していました。

＜画像：創作活動に励むunicoメンバー＞

「unico」のメンバーの作品は、絵画や切り絵など作風は様々で、猪苗代町にある「はじまりの美術館」のWEBサイトでも楽しむことができます。カラフルで自由な作品を眺めていると、表現の可能性は無限に広がっているのだと実感しました。

中テレSDGｓ推進チーム
リーダー　中山可那子

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