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Chu! PRESS

2022.03.29

震災・原発事故で人口0になった街から始まる29歳以下の事業創出プロジェクト

震災・原発事故で人口0になった街から始まる29歳以下の事業創出プロジェクト
■100人のチャレンジャーが100の事業を2030年までに創出

「Lead the Self。自分自身のやりたいことに向けて一歩踏み出したことで、みなさんはリーダーシップの旅をはじめているリーダーです」

福島県南相馬市小高区にあるコワーキングスペース・小高パイオニアヴィレッジ。東日本大震災の月命日に毎月開いているオンラインイベントで、一般社団法人パイオニズム代表の和田智行さん(45)が参加者に語りかけた。
震災から10年を迎えた2021年。和田さんはNext Action Social Academia ・通称「NA→SAプロジェクト」という、起業支援と人材育成の事業を、立ち上げた。原子力災害の被災地から浮き彫りになる社会課題を、事業創出で解決できないか。プロジェクトには、そんな思いが込められている。

小高区は、11年前に起きた東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故で、避難指示が出された地域。6年前に避難指示は解除されたものの、住んでいる人の数は震災前と比べ、およそ3分の1に。その多くが高齢者だ。少子高齢化や人口減少など、小高は日本の社会課題の縮図、最先端の地ともいえる。

和田さんは、10代で震災を経験したいまの20代を社会を変革する意思をもつ「ゴールデンエイジ」と位置づけた。プロジェクトの参加者は、次の10年を担う29歳以下に限定、彼らに無料で起業支援を行う。

プロジェクトのゴールは、100人のチャレンジャーが課題を解決する100の事業を、2030年までに創出すること。Yahoo!とソフトバンクがサポート企業につき、講師の派遣やネット募金、社員の業務やボランティアを通じて運営を支援する。

参加者たちは、1年目をめどに起業するアポロ、中長期で起業をめざすロケット、この2つをサポートするブースターの3クラスにわかれ、オンラインやリアルで学びながら、新しい価値創造につながる事業に挑戦していく。
■小高に移住 コミュニティーハウスを起点にして人が集まる仕掛けづくりに挑戦する23歳

「福島に人が集まれる仕組みをつくりたい」

大川翔さん(23)。1年以内の起業をめざす、アポロクラスのメンバー。大川さんは去年10月、同じ県内の郡山市からここ小高に移り住んだ。
大川さんがめざしているのは、「コミュニティーハウスを起点に外部の人たちが集まる仕組みをつくること」。その実験場として、コミュニティーハウスという手法を選んだ。地元の人から貸してもらった古民家を、リノベーションしながら、コミュニティーハウス「OASOBI」の開業に向けて準備を進めている。

「地域の外から小高に人が集まる仕組みをリアルとオンラインの融合で構築する」

大川さんが特に力を入れているのは、SNSを中心とした情報発信。地元の人向けには、地域の魅力を発掘し伝える。外の人には、小高を知ってもらうための魅力を伝える。オンラインサロンのような場からリアルに来てもらう流れをつくっていくのだ。
そうして、外から来る人たちのお金で地域の経済を回せないか。大川さんの狙いは、そこにある。
■高校生と大学生ら600人が集うオンラインコミュニティーを主宰

大川さんにとってオンラインは、勝手を知った世界。学生時代に立ち上げたSFF(Spread From Fukushima)は、福島県在住または出身の高校生や大学生など600人が集う、オンラインコミュニティー。そこで築き上げたつながりや知見を小高のコミュニティーハウス開業に注ぎ込む。

「シェアハウスを設けること以外は、決まっていないんです」

コミュニティーハウスの中でやると決めているのは、シェアハウスだけ。それ以外の使い方は、集まってきた人たちと一緒に考えて行きたいという。すべてを固めず、あえて余白をつくることで自分にはない発想を取り入れる考えだ。

「集まった人たちのDIYで、サウナ小屋をつくるなんてのもいいかな」

借りた古民家には、薪を焚いて井戸水を沸かす風呂がある。そこからヒントを得た。そんな情報をオンラインで発信し、多くのたちにキャッチしてもらう。もちろん、SFFでつながった学生たちにも自らの熱量をシェアしてもらい、小高に集う仲間=ファンになってもらう。
■福島のマイナスイメージをプラスへ転じさせる人材を育成 自らがインフルエンサーに

「自分で考え、自分で行動する。そんな若い人材を育てることが必要だと思う」

震災と原発事故で、マイナスイメージがついている福島。大川さんは、若い人たちが取り組む地域を元気にするプロジェクトの情報をオンライン上で発信するだけでなく、プロジェクトを立ち上げた「人の魅力」も伝えたい、と考えている。

プロジェクトを支える仲間が集まり、事業化していくことで新たな仕事が生まれて行く。そんな正のスパイラルをつくることで、福島のマイナスイメージを変えられるのではないかと感じている。
自らがインフルエンサーになり、SNSを通じて福島の若い世代にリーチしながら、「Fukushima frogs」という、自分で考え自分で行動する人材を育成する、教育プログラム事業を立ち上げていくのが今年の目標だ。

「自分が得意なのは、0(ゼロ)から1(イチ)の事業を起こすこと」

1を10、そして100にしていく人に、バトンタッチしていく。そんな「種まき人」のような存在になることが向いているのかな、と自己分析する大川さん。NA→SAプロジェクトを通して得た気づきのひとつでもあるようだ。
■NA→SAプロジェクト 開講10か月で145人が参加 5人が起業 社会をアップデートしていく
震災と原発事故から11年目を迎える今月9日。NA→SAプロジェクトの1年間を総括するイベントが、開かれた。5月に開講してから、10か月。145人のゴールデンエイジがプロジェクトに参加し、そのうち5人が起業した。そのほかの参加者も起業の種を見つけるなど、事業づくりに挑戦している。

 プロジェクトの代表である和田さんは、NA→SAプロジェクトのビジョンとして、「復興を超える。被災地の課題解決の先で社会をアップデートする」を掲げている。
実際に、今年度NA→SAプロジェクトに参加し起業したアポロクラスの1人、野城菜帆さん(25)も社会をアップデートする、期待の人材のひとり。水産漁業の効率化をめざして、海洋観測システムの開発会社「MizLinx」を立ち上げた。
NA→SAプロジェクトでの学びなどもきっかけに、養殖漁業が盛んな長崎県でサテライトオフィスを構え、持続可能な水産業の実現に取り組みはじめている。

「ゴールデンエイジたちが実現したい社会や手に入れたい暮らしは、僕らとは違う価値観のもとにある。閉塞感のある日本社会において、新しい光を生み出すものになっていくのではないか」と、和田さん。

NA→SAプロジェクトのスタートから1年。感じたのは、やりたいことを持っている若い人たちが多いということ。彼らが実現するための方法や一歩踏み出す勇気を得れば、それをカタチにしていくことができる。

次世代のためにアクティブに関わりみんなでつながる。そんな学びと事業の場をつくりながら、これからもゴールデンエイジたちのやりたいことをサポートしていくという。

 福島県南相馬市小高区。震災と原発事故で一度、人口が0(ゼロ)になったこの街で、次の10年を担う若者たちの挑戦がはじまっている。


Chu!PRESS編集部 地域創生担当 山中利之
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