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徳光 雅英
徳光 雅英Masahide Tokumitsu
福島東高校サッカー部、ベスト8への道7
 5日、いよいよ国立競技場を目指す桐蔭学園戦です。三ツ沢球技場を訪れた齊藤監督は、開口一番「懐かしいですねぇ。」と感想をもらしました。かつて富士通(現在の川崎フロンターレ)時代にプレーした場所の一つだそうです。
 「昔はよくここで(相手チームに)やられたなぁ。」
ともおっしゃっていました。
 この日は珍しく、ウォームアップの前に会場でミーティングを開きました。齊藤監督の意図としては、会場の雰囲気に早く慣れさせる事もあったようです。以前にも書いたとおり、桐蔭学園とは大会直前の御殿場遠征で試合をしています。今大会で初めて、対戦した事のあるチームとの戦いを控えたミーティングは、こんな言葉から始まりました。
 「きょうは、何とかなるって事は絶対に無い!」
 相手は阿部祐大朗選手のいるチーム、ゴール前まで運ばれるとピンチが広がります。やはり中盤からの守備の面での注意点を挙げていました。
 「簡単に縦に突破させるな。ボランチ同士の間隔をコンパクトにして、プレスをかけていこう。セカンドボールを積極的に拾っていけばチャンスはある。」
 そして攻撃に転じたら迷わず、スピードを殺さないようにとの指示も出ていました。

 この日は県勢として初のベスト4進出がかかっているとあって、我々FCTからも周辺取材でカメラクルーが1班出たほか、NHKと県内の別の民放1社もカメラクルーを派遣するなど、福島東がどれだけ凄い事をやっているのかが伝わってきます。この日は学校で模擬試験があったのですが、応援席にはバス12台で学校から応援団がかけつけたほか、学校に残っていた3年生も、模擬試験の時間をずらすという学校の粋な計らいでテレビで応援していたそうです。
 閑話休題。選手たちは、宿舎で3年生と1・2年生は別の部屋で過ごしています。3年生が受験勉強に専念できるように配慮しての事なんです。某3年生選手に話を聞くと、
「ええ、3年生はみんな受験参考書をちゃんと持ってきてますよ。」
と当たり前のような顔で言います。が、参考書を開いたかどうか聞いてみると
「いやぁ、ここまで来ると勉強に手がつかないっすねぇ。」
と、大会の間はサッカーにしか集中出来ないようでした。

 試合前円陣を組んだ福島東イレブンは、長澤キャプテンが初めて
「絶対国立行くぞ!」
と国立の言葉を口にしました。
 しかし、試合はあっけなく動きます。前半僅か2分、右サイドからのクロスボールをヘッドで合わせられ、先制点を許してしまいます。しかし齊藤監督から指示は余りとびません。県大会決勝、全国の1回戦、2回戦、3回戦、戦いを重ねる度に齊藤監督がテクニカルエリアで指示する回数が減ってきました。
 「このチームはここまで及第点をあげられる出来です。ゲームコンセプトをよく理解してプレーしていますから。」
 そう話していた齊藤監督は、自ら試合中に細かい修正をしながら戦う選手を信頼していたのだと思います。しかしエースの萬代選手がペナルティエリアで倒れ、主審にシミュレーションをとられてイエローカードをもらった後、ツープレーほどじっと見守っていた齊藤監督は立ち上がって声を張り上げました。
 「バン(=萬代選手の事)、落ち着け。落ち着け。」
 萬代選手のイエローカードは大会通じて2枚目、という事はこの試合に勝っても次の準決勝、国立競技場のピッチでプレーする事は許されません。萬代選手の心の動揺がプレーに出ていると、齊藤監督の目には映っていたのかもしれません。
 徐々に落ち着きを取り戻した福島東もチャンスを少しずつ作り、0対1のまま折り返します。
 ハーフタイム。1失点は勿論、萬代選手のイエローの事もあったのでしょう、今までになく静かなイレブンでした。齊藤監督はこう切り出します。
「(ボールを)回されるのは、分かってた。でも御殿場の時より試合になってるよ。後半、絶対流れは来る。
 (守りが)阿部選手につられるのは仕方ない。だから周りの選手が声を出して、カバーリングをしよう。
 シュートチャンスは作れているぞ。絶対チャンスはある。」
 最後に、齊藤監督は萬代選手に目を向けて檄をとばしました。
 「バン、イエローは気にするな。1点じゃ勝てないぞ。2点とって来い!!」
 後半は、リードを許した大分戦のようにシステムをボックスに変更して臨みました。福島東は桐蔭学園の選手をフリーにさせずDF陣がよくがんばっていました。
 そして中盤でボールが奪えるようになってきて後半30分、中盤で奪ったボールを大きくサイドチェンジ、そのボールを遠藤選手が相手DFとGKの間へロビングボール。相手DFはクリアしきれず、GKが前へ。すかさず萬代選手がボールを奪うと、胸でワントラップしてGKを振り切る。この瞬間、勝負は決まっていた。無人のゴールに右45度からシュート!!同点ゴール!!!
 この時、今大会初めて齊藤監督はゴールゲッターを抱きしめる姿を見せました。国立へつながる1点、その重みある1点をとった喜びで、いつもは人目を気にしてガッツポーズさえ控えるという齊藤監督が、萬代選手を抱きしめたのでした。
 結局この同点シュート以降はゴールが決まらず、国立に立つチームは、PK戦によって決まる事になりました。騒然とする福島東ベンチ、その中で齊藤監督、ぽつりと呟いたのを私は聞き逃しませんでした。

 「萬代のいない国立…。」

 次の準決勝に向けた対策を練り始めたのか、それともPK戦を制したら萬代選手を国立でプレーさせてやりたいという想いが呟かせた言葉なのか。
 しかしPK戦の末、福島東のベスト4進出はなりませんでした。

 イレブンの中にはベンチの前に挨拶に来ると、膝を折る選手もいました。受験勉強の事だけを考えればとっくに引退していてもおかしくないのに、最後まで選手をサポートしてきた3年生女子マネージャーも、顔を覆って泣きじゃくっていました。
 「よくやったと思います。」
 そういった齊藤監督の声は震えていました。
 イレブンたちは応援席に挨拶に行き、ロッカールームへ。でもロッカールームに戻れず通路で泣いていたのは、柳原選手でした。
 「選手権では自信がつきました…。」
 ——でも、桐蔭学園の阿部選手もおさえて、互角にやれたんじゃないの?
 「やられたところも多かったし……、この経験を生かして来年もここまでは来たいと思います……。そして3年生が素晴らしい先輩たちで、このチームでここまでやれた事を誇りに思っています……。」
 ロッカールームにお邪魔すると、殆どの選手が座り込んで涙を流しています。その中、すすり上げる声をかきけすように
「胸張って帰れるぞ!ここまで桐蔭を追い詰めたんだから!!」
という大きな声が聞こえてきました。3年生が泣き崩れる後輩選手に呼びかけていたのです。齊藤監督が「1〜2年生に比べて3年生は大人というか、しっかりしているというか、進学校の生徒っぽい感じですよ。」と評していた3年生は、長澤キャプテンが、丹野選手が、また最後まで出られなかった控えの赤井勉選手が、最後まで後輩に声をかけて回っていました。
 「下向くな。」「来年も来いよ。」「有難う。」
 萬代選手は
「選手権は自分にとって良い経験になりました……自分がもっと点をとっていれば良かったんですけど……3年生に申し訳なくて………。」
 自分を責めたまま、あとは言葉になりませんでした。
 長澤キャプテンは、3年生の気持ちを代表してこう話してくれました。
 「自分たちの力は出せたと思います。来年は更にレベルアップして、この悔しさを晴らして欲しいと思います。何より、良い仲間と素晴らしいサッカーが出来たと思います。」
 このあと取材陣に囲まれていた齊藤監督がロッカールームに戻ってきました。今まで取材でロッカールームにお邪魔し続けてきた私ですが、最後のロッカールームだけは遠慮させていただきました。

 各マスコミの取材を終え、イレブンが荷物を持って球技場から出てきました。大勢の人だかりが出来ています。桐蔭学園の阿部選手が、サイン攻めにあっていたのです。阿部選手が一人一人丁寧にサインをする脇を、福島東イレブンはやや伏目がちにバスへ向かいました。
 暫くして、福島東のバス近くにもちょっとした人の輪が出来ていました。選手ら数人が、親しげに女の子と会話しています。開会式の入場行進でプラカードをもってくれた女子高生でした。わざわざ会場に応援に来てくれていたのだそうです。
 「プラカードを持ってくれただけなのに、応援に来てくれるなんて嬉しいですねぇ。」
 福島東イレブンの顔にも、笑顔が戻っていました。
 萬代選手は、バスに乗り込む前にこう話してくれました。
 「今まで、国立って『夢』だったんです。でもあと一歩というところまで来られたので、国立は自分にとって夢じゃなくて、『目標』になりました。」
 長澤キャプテンに「惜しかったなぁ。」と話しかけると、
「それは言わないでくださいよ。一番きつい言葉ですから。」
という返事が…。それはそうですよね。大変失礼しました。でもちょっぴり誇らしげに胸を張ってこう続けました。
 「このチームは凄いですよ。何て言ったって、あの勝監督が僕たちの事を誉めたんですから。」
 サッカーに関しては常に厳しい齊藤監督……そういえば、ハーフタイムにこう言ってたっけ。
 「お前たち、1人1人成長しているよ。バランスが取れてる。」
 こうして福島東イレブンは、もう10年以上乗っている年季の入ったマイクロバスにすし詰めになって、三ツ沢球技場をあとにしました。

 この「ベスト8の道のり」を締めくくる前に、どうしても触れておきたい事が
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