温かな町に魅せられて。楢葉町で始めた子どもの居場所づくり。【福島への移住で地域の課題に向き合う】

Chu! PRESS

2025.10.14

2024年の福島県内の移住者は、2700世帯3799人で過去最高となりました。福島第一原子力発電所の事故により、避難指示の対象となった福島12市町村へ移住し、新たな挑戦に取り組んだ人、夢を追った人の体験をシリーズ記事でお届けします。
今回は、楢葉町の日野涼音さんを紹介します。

夕暮れ時の楢葉町の旧道の一角。かつて駄菓子を求めて子どもたちが集った商店は、現在別の形で子どもたちを呼び寄せている。しばらく静かだった店内が、今は子どもたちの笑い声でにぎやかだ。その輪の中心にいるのは、山形県出身でNPO職員の日野さん。「ならはこどものあそびば」と名付けられたこの場所は、日野さんが立ち上げた施設で3歳から12歳までの子どもたちが学校終わりや休日に利用している。利用者は年間のべ900人ほど、開所から約3年が経ち、すでに地域にとっては欠かせない存在となっていた。

「人の想いとか気持ちを尊重する人がとにかく多い地域だと思いますね」
2019年、大学1年生の時に参加した復興庁のインターンシップがきっかけで初めて楢葉町を訪れた日野さん。約1か月間に渡るインターンシップでは地域住民と触れ合う機会も多かった。その中で、素直に自分の気持ちを発信する町民や、それを尊重して積極的に手伝いをする周りの人々が作り出す温かい町の雰囲気に魅了された。インターン終了後も町に通い続けた日野さんは、やがて大学在学中に楢葉町への移住を決意する。大学の専攻はコミュニティデザイン、大好きな楢葉町の町づくりをそのまま卒業研究にする狙いだった。

「顔が見える誰かのために何かをしたいと思っていて、都会に出るよりも地方に移住すると思っていました」
日野さんは大学4年生の始めに楢葉町に移住。そこでさらに深く地域住民と触れ合う中で度々話題に出ていたのは、子どもを見守る場所が不足しているという地域課題だ。日野さんは、この課題を解決するためになにかできないかと考え、卒業後も町に留まることを心に決めた。

卒業を前に、日野さんが出した答えは、地域の子どもたちが放課後や休日に自由に遊べる場所を作ることだった。その夢を叶える環境として選んだのは、現在の勤め先であるNPO法人「底上げ」。元々、東日本大震災の被災地支援がきっかけで発足されたこの団体は、日野さんの夢にすぐ共感した。「日野のやりたいことをやろう」と代表が日野さんの背中を強く押した。

2022年春、大学を卒業した日野さんは、そのまま楢葉町で子どもの居場所づくりの準備を進めた。すでに町に溶け込んでいた日野さんの取り組みなので、地域住民からの応援の声も多かったという。そして、約半年後に子どもたちが自由に遊べる空間「ならはこどものあそびば」を開所した。

「これみんなで使ってよ～って折り紙とか端材とか持ってきてくれたりするんです」
開所後の地域からの反応は日野さんの想像以上だった。施設には色々な大人たちがかわるがわる顔を出し、子どもたちが遊びに使える道具を差し入れしてくれる。長く閉ざされていた商店は、日野さんの手で、子どもと大人が自然に交わる場所へと生まれ変わりつつある。

日野さんは楢葉町に新たなコミュニティを作り上げたが、これが彼女の夢の完成形ではない。
「最終的には、子どもと大人の触れ合いが、どこでも自然にできる地域になっていったら嬉しいですね」
楢葉町をさらに温かい地域にするため、日野さんは今日も子どもと大人を繋いでいる。

福島12市町村の魅力を伝える現地体験型イベント「ふくしま12移住フェス」が10月25日福島県南相馬市で開催されます。
移住はロックだ！をテーマに、スペシャルライブやステージトーク企画、移住者と交流できる体験ブースが用意されます。音楽とともに新たな人生の可能性を探求するこのイベントで、地域の魅力を直接感じてみてはいかがでしょうか。

「ふくしま12移住フェス」
開催日時：2025年10月25日(土)
開催場所：福島県南相馬市北泉海浜総合公園
（騎馬武者ロックフェス2025会場内）

Chu!PRESS編集部