福島中央テレビ

2024年の福島県内の移住者は、2700世帯3799人で過去最高となりました。福島第一原子力発電所の事故により、避難指示の対象となった福島12市町村へ移住し、新たな挑戦に取り組んだ人、夢を追った人の体験をシリーズ記事でお届けします。
今回は、広野町の大場美奈さんを紹介します。


この秋から広野町にオープンするゲストハウス「月とみかん」。誰もが落ち着ける場所を目指して作られた温かみのある空間は使われなくなった古民家をリフォームしたものだ。オーナーは2019年に山形県から移住してきた大場さん。このゲストハウスをオープンすることが長年の夢だったという。

「私にとってゲストハウスはただの泊まる場所じゃないんですよ」
大場さんがゲストハウスにこだわる理由は2015年まで遡る。大場さんはこの時、21歳。進学した東京都内の専門学校の卒業を控えていたものの自分の進路に頭を悩ませていた。進路が決まっていなかったわけではない。東日本大震災の経験から志した救急救命士への就職は決まっていた。しかし、その決断に自分では納得しきれなかった。「私がやりたかったのはこれだったのかな…。」都内の自宅では答えが出なかった大場さんは、友人の間で評判だった南相馬市のゲストハウスをフラっと訪れた。

「不思議な感覚でした。色んな人が賑やかに交流しているけど、どこか落ち着いていて…居心地が良かった」
そこで目にしたのは世代や国籍の違う人々が集まって、一期一会の交流を楽しんでいる光景。そんな空間にいると、悩みごと、ありのままの自分を受け入れられた気がした。私は1人じゃない。
何度かそのゲストハウスを訪れるうちに、大場さんは内定を辞退して新たな道へと舵を切っていた。

そこから色々な職を経験したが、最後に行きついたのは自分の生き方を変えてくれたゲストハウスのオーナーという目標だった。中でも、目を付けたのは故郷のいわき市の隣にあった広野町。いわき市と南相馬市の良いところが合わさったような町の雰囲気に魅力を感じたからだ。そして、2019年に地域おこし協力隊として広野町に移住。活動の傍ら、「地域のためにゲストハウスをオープンする」という夢を声高らかに色々な人にアピールしていった。しかし、大場さんのアイデアは地域からなかなか賛同を得られなかった。

「地域のため、という言葉を前面に出し過ぎていたのかもしれないですね」
大場さんはこう振り返る。そもそもの原動力は、南相馬市で体験したあの日の出来事。自分が感じた思いを形にしたかっただけなのに、 提案する時は“広野町のため”という言葉を常に最初に持ってきていた。自分の気持ちが抜け落ちた意見は、どこか中身が薄く、人々の心に響かない日々が続いた。
ゲストハウスを設けるのは地域のためだけではない。あの頃の自分のように、そうした場所が必要な人のためだ。大場さんは自分の気持ちに素直になって、改めて発信を続けた。すると、大場さんに共感する人が1人、また1人と増え始めて、ゲストハウス開業が徐々に現実に近づいていった。

2025年秋、古民家を改築した2階建てのゲストハウス「月とみかん」がいよいよ広野町に誕生する。
「だいぶ時間が経っちゃいましたけどね」照れくさそうに大場さんは話す。玄関の脇には地元の人がかわるがわる植えていってくれたという花々が来訪者を迎え入れる。今の大場さんに迷いはもう無い。ここでは誰かの心を軽くする出会いが待っているはずだ。大場さんは広野町でその日を楽しみにしている。

福島12市町村の魅力を伝える現地体験型イベント「ふくしま12移住フェス」が10月25日福島県南相馬市で開催されます。
移住はロックだ！をテーマに、スペシャルライブやステージトーク企画、移住者と交流できる体験ブースが用意されます。音楽とともに新たな人生の可能性を探求するこのイベントで、地域の魅力を直接感じてみてはいかがでしょうか。

「ふくしま12移住フェス」
開催日時：2025年10月25日(土)
開催場所：福島県南相馬市北泉海浜総合公園
（騎馬武者ロックフェス2025会場内）

Chu!PRESS編集部