浜通りに誕生する世界的アーティスト宮島達男の作品を恒久展示「時の海 – 東北」プロジェクトへの思い－アートレック#10－

Chu! PRESS

2025.02.28

2025年2月、東京都で開かれた記者会見。世界的に知られる現代美術家の宮島達男さんが発表したのは、10年以上にわたる構想の末に誕生する《時の海 - 東北》美術館（仮称）の建設計画です。場所は福島県富岡町。東日本大震災の犠牲者への鎮魂と震災の記憶の継承、そして、これからの未来を共につくることを願うアート作品を恒久的に展示するというものです。

展示される《Sea of Time- TOHOKU》は幅40メートルの巨大な水盤の中で3000個のLEDカウンターを光らせるインスタレーション作品で、東北に住む人や東北に想いを寄せる一人一人の人生や思いが刻まれます。

「この作品は、3000人の時間を一つの場所に集めるものです。それぞれの人生があり、それぞれの時間がある。震災で失われた命や、今を生きる人々の想いを形にしたいと思いました。」

会見でそう語った宮島さん。なぜこの作品を作ろうと思ったのか、なぜ福島県富岡町での展示を決めたのかについて話を聞きました。

「何もできなかった」自分へのリベンジ

撮影：宮島達男／2011年／岩手県

2011年3月11日――東日本大震災が日本を襲ったあの日から人々の生活は一変しました。当時、山形県にある東北芸術工科大学の副学長を務めていた宮島さんは、学生らとともに被災地でボランティア活動を行いましたが、自然の脅威に対して何もできない人間の無力さに絶望を感じたと言います。

「私はアートで"世界を救う"とか"世界を変える"と震災前に言っていたんです。それぐらいアートに対して絶大な期待と自信を持っていました。けれど、自分自身1ミリも動かすことができなかった」

Mega Death｜1999

現代美術家・宮島達男の名を世界に響かせたのは、1999年のヴェネチア・ビエンナーレで発表した『MEGA DEATH』という作品でした。20世紀に起こった戦争や虐殺をテーマにした作品で「過去の悲劇を忘れず、命の大切さを考える」ことを観る人に問いかける強いメッセージ性が反響を呼びました。しかし、被災地の惨状を見た宮島さんは、しばらく作品を作れなくなるほどのショックを受けたと言います。しかし、ボランティア活動を通じて、また被災地の人々と触れ合う中で、新たな使命を見出します。

「震災後、日本全体が社会を見直したり、エネルギー問題を考えたりしていた。でも、時間が経つと、人は忘れてしまう。震災の記憶が風化していくことに、強い危機感を持ちました。」

その危機感こそが、「時の海 - 東北」プロジェクトの出発点でした。どれだけ時間が過ぎても忘れてはいけないものがある。絶望を乗り越えて未来への思いを、永遠に続く時間軸で表現するアート作品を作る。それは、自分自身の思いだけではなく、多くの人の思いを紡ぐものとなります。

3000人と共に作る命のアート

「時の海 - 東北」ワークショップ・撮影：鈴木宇宙

「時の海 - 東北」は、「あの時、あの人に、逢いにいく」をテーマに東北に住む人や東北へ思いを寄せる人たち3000人と共に作り上げていくアートプロジェクトです。3000個のカウンターが水の中で光り、数字がカウントし続けますが、そのカウントの速度を0.2秒～120.0秒までの数字で一人一人に設定してもらうというワークショップを続けています。

「"一番大切な数字"を設定してくださいってお願いしています。一番大切な数字と言われたときに、どんなことを考えるかというと、"自分にとってかけがいのないもの"に関係する数字です。」

震災で亡くなった友達の誕生日に設定する男の子。大好きなスポーツ選手の背番号。選ぶ数字は人それぞれです。中には、1時間以上考えながら大切だった人のことや忘れられない思い出を頭に浮かべ涙を流す人もいたと言います。

「時の海 - 東北」ワークショップ・撮影：西塚笑子

「みなさん人生をずっと振り返られて、自分にとって一番大事な数字、一番大事な人は誰だったかということを思っていただき、考えていただくということが、あの時あの人を思い出していくことにもつながるし、その大切な数字を設定したLEDが展示されたときには、その人に会いに行くんです。」

宮島達男|《Sea of Time – TOHOKU》|2020|森美術館「STARS展」より

人々が選ぶ数字は、愛する人への想い、過去の記憶、未来への願いを象徴するものとなりました。そして、このLEDカウンターは"ゼロ"は表示されずに、光が消える設定になっています。数字が光り、暗闇に消え、また光る。その繰り返しが命の連鎖を表し、3000個の光が集まったときに人々の命のハーモニーを感じられるのです。

富岡町の海が見える丘に

2025年2月。宮島さんは「時の海 - 東北」プロジェクトのメンバーや協力者たちと共に作品を恒久展示する美術館の建設予定地を訪れました。そこは、富岡町にある海が見渡せる丘です。

「いよいよ始まるなぁという気持ちを強く持ちました。浜通りの方々と一緒に作っていくという気持ちでいっぱいです。」

なぜこの場所なのか。宮島さんは海が見えるという立地だけではなく「ゼロから始まったこの場所ならアートが成立する」と考えたと言います。

「アートワークは何か先入観があるような場所はあまり良くないと思っていて、原発事故があった福島県に設置することに逡巡がありました。ただ、浜通りの人たちはみんなが前向きで、志高く故郷に戻ってきたり、東京から移住して来たり、そこで酒造りを始めたり、デザイン事務所を始めたりしている。彼ら彼女らは"全町避難してしまって何もなくなったゼロからスタート。新しい未来しかない"と話しているんです。こんなポジティブな人たちがいっぱいいるんですよ。」

「浜通りにはこういう人たちが暮らしてるんだ。ここがまさに生きてる現場なんだなと思いました。ここに向き合っていかないで何がアートだ。何がアーティストだと思うようになって、自分の先入観が全部解けていって、むしろここだからこそできる何かがあるんじゃないか。ここだからこそアートが成立するんじゃないかと考えが変わったんです。」

美術館は単なる展示スペースではなく、震災の記憶を共有し、未来へとつなぐ場所となる。地域の人々が集い、新たなアートが生まれる場となることを目指しています。

未来へ続くプロジェクト

《時の海 - 東北》美術館（仮称）は2027年に竣工予定です。しかし、このアートプロジェクトのゴールはそこではありません。

「この美術館が完成しても終わりではなく、ここからさらに新しいプロジェクトを生み出していきたい。震災の記憶を伝え続けるためにも、この場所を活用し続けます」と話す宮島さん。この美術館は地域の人々だけでなく、国内外のアーティストたちが集い、新たなアートプロジェクトが生まれる場ともなる予定です。震災の記憶を伝え続け、新しい時代のための創造の場を提供することを目指しています。

「震災のこと、そして命のことを考える、ゆったりとした時間が流れる場所にしたい。この美術館があることで、未来の世代が震災の記憶を学び、考え続けられる場所になればいい。そして、何かを生み出す力になれば」

いつか、みなさんも富岡町を訪れ《時の海 - 東北》美術館（仮称）に来てください。そこで、あなたはどんな想いを抱くでしょうか？

＜☑YouTube動画はコチラ＞

＜「時の海 - 東北」プロジェクト　公式WEBサイト＞
https://seaoftime.org/

＜「ハマコネ　浜通り×アート」HP＞
https://hamado-ri.com/

シリーズ企画「アートレック」
タイトルの「アートレック」はアート(芸術)、アトレ(魅力)、トレック(旅)、レック(記録)を組み合わせた造語です。アーティストたちが被災地を訪れその魅力を記録していく活動や思いをYouTube動画・WEB記事・テレビ番組で伝えていきます。

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富岡町の海が見える丘に

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