福島県の沿岸部にある浪江町がいま起業家たちにとって“熱い”場所となっています。

東日本大震災と原発事故で全町民が避難し、一時は居住人口が０人になったにも関わらず、宝島社が発表した「2024年版住みたい田舎ベストランキング」の人口１万人未満の町部門で１位を獲得。世界最大規模の水素工場が作られ、大手自動車会社が進める水素自動車など水素エネルギーの発信拠点にもなっています。

さらに、新国立競技場を設計した建築家・隈研吾さんがまちづくりに協力し、町のシンボルとなる「なみえルーフ」の建設計画が進んでいます。

そうした中で、浪江町には「住友商事」を始め有名アウトドアブランドの「スノーピーク」やTSUTAYAで知られる「カルチャーコンビニエンスクラブ」など大手企業が次々と町づくりに参入しています。

その浪江町でゼロからの挑戦を続ける起業家たちと、今後、浪江町での起業を目指そうと志す人たちの配信イベントが、水素エネルギーを活用した温浴施設「いこいの村なみえ」で2024年８月に開かれました。
 

■全国からオンラインで100人超が参加

配信イベントでファシリテーターを務めた住友商事の西野修一朗さんは「浪江町と我々住友商事はまちづくりに関する連携協定を結んでおり、移住者を呼び込むための施策として、特に“起業”を大きなテーマにしています。」と説明。第一回目となる今回は浪江町で活躍する起業家たちが集まり、地方移住や起業に興味がある人たちに向けた配信となりました。
（動画はYouTubeアーカイブから全編視聴可能）

配信には、浪江町で活躍する起業家の緒方亘さんが登場し、起業のきっかけや現在手掛けている仕事について話を聞くことができました。緒方さんは浪江町を盛り上げるキーパーソンの一人。浪江町の若手就農者と協力し「なみえファーム」という団体を立ち上げ、荒れた農地を活用して地域農業の再興を目指すだけでなく、道の駅でラーメン店を経営しながら地元の食材にこだわった商品開発を行う地域商社「浜のあきんど」の代表も務めています。緒方さんは「地域の人々の困りごとを解決し、その笑顔を見ることが自分のやりがいです。」と語り、その姿勢が町の住民たちの刺激にもなっているといいます。

さらに、女性起業家・栃本あゆみさんの取り組みも注目されています。彼女は震災後に東京から浪江町に戻り、おむすび専門店を立ち上げました。地元の食材にこだわったおむすびは、たちまち町の名物的な存在となり、浪江町に新しい風を吹き込んでいます。栃本さんは「浪江町は新しいものを受け入れる風土があります。これから何かを始めたい人には、浪江町での起業が絶好のチャンスです。」と語ります。

今回の配信には、浪江町を応援するアイドルグループ「浪江女子発組合」のメンバー・佐々木彩夏さんと播磨かなさんがリモートで参加しました。佐々木さんは浪江町が新しいものを受け入れる風土があることに共感し、「浪江町の魅力をもっとたくさんの人に知ってもらえるようにファンに伝えていきたい」を話しました。また、播磨さんは「もし浪江町で起業したら、是非私たちとコラボしましょう」と参加者たちに呼びかけました。

ちなみに、浪江女子発組合は、配信が行われた８月１日に『ふるさと応援大使』に就任しています。
 

■キッチンカーでの挑戦者

配信にはキッチンカーで唐揚げ専門店の営業を行っている菅野喜直さんも登場し、自慢の唐揚げを紹介しました。菅野さんは、新規事業者を支援するチャレンジショップで得た資金を元に「たまげた家」を開業。町の特産品であるサムライガーリックを使用した味付けなどにこだわり、町民のみならず観光客にも人気を博しています。

菅野さんは「サラリーマン時代は夢や目標がなくモヤモヤしていた時期だった」と話します。勤めていた会社を辞めて海外移住し、ドイツやオーストラリアで飲食店のアルバイト経験から「いつか起業したい」との夢が膨らみ始めたと言います。コロナの影響で帰国し、浪江町のホテルの厨房で飲食業について学んだあと起業しました。

Zoomのアンケート機能で参加者に「あなたには目標がありますか？」と聞いたところ、ある＝45％、ない＝18％、モヤモヤしている＝35％という回答結果になりました。参加者の半数以上は目標が明確には決まっていないという状況に菅野さんは「これから浪江町で起業したいと考えている人が、僕を見て夢を見られるような、憧れてもらえるような成功モデルにならなきゃなと思ってます」と語りました。

浪江女子発組合の２人も菅野さんの唐揚げを試食し、「とてもジューシーで美味しい！」と絶賛。菅野さんは今後、キッチンカーでの営業を続けながら実店舗のオープンを目指しているとのことです。彼の夢の実現は、町の未来に大きな可能性を感じさせるもので、多くの人たちが後に続くことが期待されています。
 

■チャレンジしやすい環境と支援制度

浪江町は起業家を支援するための制度が充実しています。住友商事の西野さんは「浪江町はチャレンジャーが集まりやすい環境が整っていて、多くの人たちが新しい挑戦を後押ししている」と話します。

そのひとつの拠点となっているのが、JR浪江駅前にある「ナミエシンカ」です。起業相談の窓口やスタートアップ起業家育成、さらにスタートアップ起業を対象とした３カ月間の集中支援プログラムなど様々な支援活動が行われています。

浪江町は震災からの復興を進める中で多くの挑戦を重ねてきました。町全体がゼロからの再スタートを切ったことで、逆に新しいものを受け入れやすい風土が生まれました。そのことで、多くの人たちがこの町で新しい事業を立ち上げる機会が増えています。「ナミエシンカ」は、箱のような建物が並んでいるだけのように見えますが、そこに集まった人たちの交流から新たなビジネスの創出や起業人材を支援する取り組みが生まれています。そして、いま飲食店の開業や新規就農だけではなく、エネルギー産業や町づくりデザインなど様々な分野の先進プロジェクトが立ち上がっています。

今後も「ナミエでゼロイチ」と題した配信イベントが続く予定です。ウェビナー形式ではなく、参加者がゲストや起業家たちに直接質問を投げかけることができるZoomミーティングでの開催を予定しているとのことで、今後の配信予定についてもチェックしたいところです。

☑「ナミエシンカ」とは？
https://www.namieshinka.jp/

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