2021.07.16
homecoming 1
いよいよ7月8日から、福島県立美術館で「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展」が始まりました。この企画展は、アメリカにあるミネアポリス美術館に収蔵されている日本の作品92点が、いわば「里帰り」して公開されるというもので、渡来僧とともに日本に入って発展した水墨画や狩野派、東洲斎写楽の浮世絵などを見る事が出来ます。
『ゴジてれChu!』でこちらの美術展を紹介する為、先日取材に行ってまいりました。私なりの“楽しみ方”や感じた事を紹介させてください。
『ゴジてれChu!』でこちらの美術展を紹介する為、先日取材に行ってまいりました。私なりの“楽しみ方”や感じた事を紹介させてください。
アメリカの美術館収蔵品から、日本の作品が里帰りした。 |
まず入ってすぐ、圧巻のご覧の屏風絵が、観覧客を出迎えます。
今回の美術展で最初に目にする作品群。 |
特に心をざわつかせ、踊らせてくれるのが、この『龍虎図屏風』です。“風”を感じませんか?威風堂々、観る者の心を掴みます。そして後ろを振り返ると、
『龍虎図屏風』山田道安 16世紀の室町時代の作 |
あら、可愛い。粟の実をついばんだり、取っ組み合い?の喧嘩をしたりする雀を始め、小鳥を描いた掛け軸が数幅、龍虎図と対峙しています。まずこの演出が粋じゃありませんか。
その小鳥と龍虎に挟まれるかのように右手に見えた屏風絵は
その小鳥と龍虎に挟まれるかのように右手に見えた屏風絵は
『粟に雀図』藝愛 16世紀の室町時代の作 |
雀が食欲を満たしたり、喧嘩をしたり… |
雪村(せっそん)の花鳥図です。雪村は雪舟に並ぶほどの水墨画の名人。六枚の縦長の絵を組み合わせたような屏風が二枚一組、この六曲一双は、屏風絵の基本的な“パターン”だそうです。
『花鳥図屏風』雪村周継 16世紀の室町時代の作 |
そんな基礎知識をはじめ、日本絵画の楽しみ方を、学芸員の増渕さんに伺いました。
今回取材に御付き合い頂いた増渕学芸員。 |
「右は鷺が梅の木に止まっている絵です。月が描かれていて、静かな感じです。
そこに鯉がいて、目をぎょろっとさせているのが、ちょっとグロテスクです。
左はその鷺や燕が飛び立っているので、動と静の対比となっています。因みに左の木は柳になっているので、夏ですね。」
なるほど、時の経過も表したりしているのですね。こういった屏風絵ならではの楽しみ方は何でしょう?
そこに鯉がいて、目をぎょろっとさせているのが、ちょっとグロテスクです。
左はその鷺や燕が飛び立っているので、動と静の対比となっています。因みに左の木は柳になっているので、夏ですね。」
なるほど、時の経過も表したりしているのですね。こういった屏風絵ならではの楽しみ方は何でしょう?
右隻。左上に月が上る。月は日本人が好む題材とか。左下では… |
鯉がぎょろりと目をむく。(左隻は全体の写真をご参照ください) |
「やはり見る角度で見え方が変わってくる事でしょうね。また右の屏風だと、梅の枝がより立体的に見えてくると思います。」
確かに角度によっては(特に窪みに跨って伸びる枝は)こちら側に、梅の枝先がぐっと伸びて迫ってくる感じがします。これは面白い。
「雪村は晩年、会津や現在の郡山で絵を描いたそうです。」
実はゆかりの地も取材したのですが、これは後程。
確かに角度によっては(特に窪みに跨って伸びる枝は)こちら側に、梅の枝先がぐっと伸びて迫ってくる感じがします。これは面白い。
「雪村は晩年、会津や現在の郡山で絵を描いたそうです。」
実はゆかりの地も取材したのですが、これは後程。
右隻を右側から近付いて見てみる。 |
枝に屏風ならではの立体感が生まれる。 |
そんな龍・鷺・雀の緊張感ある対比を背にして進むと、次の一角には襖絵が待ち構えています。
「これは京都の大覚寺にあった襖絵で、田植えから収穫までの四季を描いてあって、本来は東西南北四方の襖で四季を表していましたが、今回はその内の半分を展示しています。」
襖絵を見ると、牛を使って田起こしの様子や
「これは京都の大覚寺にあった襖絵で、田植えから収穫までの四季を描いてあって、本来は東西南北四方の襖で四季を表していましたが、今回はその内の半分を展示しています。」
襖絵を見ると、牛を使って田起こしの様子や
『四季耕作図襖』伝狩野山楽 17世紀の江戸時代の作 |
部分。牛が頑張っています。 |
実りの秋を迎えて収穫をし、脱穀をしている様子がうかがえます。
脱穀の絵からは人々の収穫を喜ぶ声が聞こえてくるようです。またこの襖絵の“役割”として、
「お殿様が庶民の暮らしを知る為にも活用されたようです。」
お殿様が学ぶだけあって、狩野山楽(伝)の絵を使うとはなかなか贅沢ですね。
脱穀の絵からは人々の収穫を喜ぶ声が聞こえてくるようです。またこの襖絵の“役割”として、
「お殿様が庶民の暮らしを知る為にも活用されたようです。」
お殿様が学ぶだけあって、狩野山楽(伝)の絵を使うとはなかなか贅沢ですね。
収穫の様子。この年は豊作だったようだ。 |
外では脱穀中。座っている人と交代制だろうか。 |
ところで今回、私はこのブログで様々な作品の写真を載せておりますが、増渕さんに事前にこんなお話を頂戴しています。
「この企画展に関してのみ、写真撮影OKなんですよ。」
「この企画展に関してのみ、写真撮影OKなんですよ。」
『富嶽三十六景 凱風快晴』葛飾北斎 江戸時代1830~33年の作 |
『諸國名橋奇覧 飛越の堺 つりはし』葛飾北斎 江戸時代の1834年作 |
今回のミネアポリス美術館の作品は、写メOK、SNS掲載OKなのです。お気に入りの作品を撮っておけば、会場を後にしても手元のスマホで楽しめますよ。
それでは、私の超個人的好みの作品を幾つかご紹介しましょう。
それでは、私の超個人的好みの作品を幾つかご紹介しましょう。
『市川蝦蔵の竹村定之進』東洲斎写楽 江戸時代の1794年の作 |
まずは、こちらの掛け軸。(…どうでも良いですが、掛け軸作品はスマホの縦サイズで撮り易いです。)
作品を守るガラスの手前に手を翳すと、こんな感じ。作品自体は小品です。こちらは蓮の葉をかぶって横笛を吹く地蔵菩薩の絵です。この絵を見ると、平等院の内部で見られる彫刻、雲中供養菩薩像を連想する方もいらっしゃるでしょう。何とも愛らしい地蔵菩薩さまです。
作品を守るガラスの手前に手を翳すと、こんな感じ。作品自体は小品です。こちらは蓮の葉をかぶって横笛を吹く地蔵菩薩の絵です。この絵を見ると、平等院の内部で見られる彫刻、雲中供養菩薩像を連想する方もいらっしゃるでしょう。何とも愛らしい地蔵菩薩さまです。
『笛吹地蔵図』狩野探幽 江戸時代の1670年作 |
地蔵菩薩は、我々にも身近な菩薩さまの一つだ。 |
続いてこちらの絵巻。『きりぎりす絵巻』と言って、虫(擬人化されている)の恋物語だそう。確かに顔が…。
2枚目の写真、大団円直前の出産シーンで産湯に浸かっているのは…。詳しくは会場で。
2枚目の写真、大団円直前の出産シーンで産湯に浸かっているのは…。詳しくは会場で。
『きりぎりす絵巻』伝住吉如慶 江戸時代17世紀の作(部分) |
写真中央、産湯では…!? |
こちらは鶴の群れの屏風絵です。個人的に特に好きなものの一つです。
『群鶴図屏風』曽我蕭白 江戸時代18世紀の作 |
右の屏風は、親鶴が子どもに羽の使い方でも教えているのでしょうか?
対する左の屏風では、逆巻く波に動じない鶴が一羽…。
「動」と「動じない」、しかも波と細い鶴の足との対比に、緊張感が漲ります。
対する左の屏風では、逆巻く波に動じない鶴が一羽…。
「動」と「動じない」、しかも波と細い鶴の足との対比に、緊張感が漲ります。
右隻。ユーモラスで温かみを感じる。 |
左隻。こちらは一気に緊迫感が…。一対の屏風絵ならでは。 |
続いては、再び掛け軸の作品。『美人図』です。この何が良いって、右手で着物を持ち上げつつくるっと回ってみせたかのような躍動感。
その動きで以て更に生き生きと見えて来る、着物の柄の鯉。元気よく泳ぐ様に見えてきませんか。
因みに同じ三畠上龍作の対幅、
その動きで以て更に生き生きと見えて来る、着物の柄の鯉。元気よく泳ぐ様に見えてきませんか。
因みに同じ三畠上龍作の対幅、
『美人図』三畠上龍 江戸時代19世紀の作 |
アップにしてみる。着物の柄と動きが連動して引き立て合っているよう…。 |
わははは…この男の子は、風流な梅の木をバックに何をしているんだか…。対の作品だけに、風雅な趣の中にも滑稽味があり、左の真面目な作風との対照が笑えます。子どもだから許せます。
『舞妓覗き見図』三畠上龍 江戸時代19世紀の作 |
見てるぞ~と言わんばかりの表情の男の子。 |
学芸員の増渕さんは言います。
「外国の収集家は、誰が描いたかに拘らないんです。作品が面白いかどうかで収集されていきました。雪村もそうですが、評価や人気が逆輸入されたケースもあるんですよ。」
全部で92作品、皆さんもそれぞれにお気に入りの作品が見つかる筈。
因みにこの展示会は、東京での展示を終え福島に展開してきたもの。福島県の場合は会場が広いので、展示替えせずに全作品を一度に見られるとの事。当時の外国の人が、先入観なく「良い」と感じた日本絵画の数々を、地元でじっくり堪能してみては如何でしょう?
「外国の収集家は、誰が描いたかに拘らないんです。作品が面白いかどうかで収集されていきました。雪村もそうですが、評価や人気が逆輸入されたケースもあるんですよ。」
全部で92作品、皆さんもそれぞれにお気に入りの作品が見つかる筈。
因みにこの展示会は、東京での展示を終え福島に展開してきたもの。福島県の場合は会場が広いので、展示替えせずに全作品を一度に見られるとの事。当時の外国の人が、先入観なく「良い」と感じた日本絵画の数々を、地元でじっくり堪能してみては如何でしょう?
『大原女図』(部分)中村芳中 江戸時代の19世紀の作 |
なお今回取材した映像は、来週25日(日)の『ゴジてれ×Sun!』(午後4時25分~)でも再び放送する予定です。こちらで“予習”してから行くのも、また既にご覧になった方は再度感動を呼び起こして頂くのも、それぞれ”あり”かと思います。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展」は、9月5日まで福島県立美術館で。開館は9:30~午後5時(入館は午後4時半)まで。毎週月曜日が休み(但し8月9日は開館し、翌10日は休館)。一般1500円、学生1100円、小・中・高校生は650円です。
そして福島県にゆかりの雪村周継のエピソードは、同じく7月16日のブログ(homecoming 2)で。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展」は、9月5日まで福島県立美術館で。開館は9:30~午後5時(入館は午後4時半)まで。毎週月曜日が休み(但し8月9日は開館し、翌10日は休館)。一般1500円、学生1100円、小・中・高校生は650円です。
そして福島県にゆかりの雪村周継のエピソードは、同じく7月16日のブログ(homecoming 2)で。
里帰りした92点の作品が、福島で観られる。 |
展示は9月5日まで。個人的にもお勧めします。 |
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